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東京の百貨店勤務から長野での民泊経営へ 出産後、コロナ禍で川崎から長野への移住した美濃出麗さん

 仕事をリタイアしたら地方でのんびりとした生活を、という考えは、少し前の時代のものになったのかもしれない。働き方や生活の価値観が大きく変化し多様化する中、若い世代にも地方移住への関心が急速に高まっている。リモートワークが特別なものではなくなった中、複数の地に生活拠点を置き仕事をする人もいれば、Uターン・Iターンなどで地方に完全に拠点を移して仕事を始める人もいる。今回、コロナ禍に夫婦と1歳の娘で川崎から長野県富士見町に移住し、2023年4月にゲストハウスを開業した美濃出麗さんに話を聞いた。

2023年4月にゲストハウスを開業した美濃出麗さん

元々「地方移住」は考えていなかった

 美濃出さんは、世界中の個人が持つ空き部屋やマンション、一軒家などを旅行者向けに貸し出すことができるオンラインプラットフォーム「Airbnb(エアビーアンドビー)」を活用し、民泊運営を展開している6歳の女の子のお母さん。

 美濃出さんは、夫婦ともに兵庫県出身。結婚のタイミングなどもあり、夫婦ともに東京勤務となった。2019年5月に女の子を出産し、百貨店を退職、川崎市の住まいで子育てがスタート。そんな中、金融関係の仕事をしていた夫が2020年にロンドンに単身赴任となったタイミングで、次第に世界がコロナ禍に突入していった。まだよちよち歩きの1歳前の小さな子どもを伸び伸びと遊ばせることも、スーパーに買い物に連れて行くのも厳しくなってしまった環境や、これからの家族の暮らしを考えたときに、夫婦の話し合いの中で浮かんだのが「地方移住」の選択肢。帰国後にリモートワーク中心となった夫が必要時に通勤できる範囲であること、充実したコワーキングスペースも見つかったことなどから、富士見町への移住を決めた。

人との出会い、物件との出会いがゲストハウスオーナーの道へ

 最初に富士見町を訪れて宿泊した時の貸別荘オーナー夫婦との温かい交流が、美濃出さん一家のその後に大きな影響を与えた。移住を決めてアパート住まいをしてからも交流は続き、手伝いもする経験の中で、宿の仕事を知っていくようになったという。ちょうど、新居を購入して一軒家に住むようになるが、やがてこの新居を2023年4月からゲストハウス「8weeks Fujimi」としてAirbnbに掲載を始める。 

 「最初から宿の運営をしていたいと思っていたのではなく、人との出会いがあり、物件との出会いがありました。百貨店勤務では長くインテリアブランドで空間づくりや接客に携わっていたので、それを違った形で生かせる仕事だとも思いました」と話す。「富士見町で会う方会う方に、親切にしていただきました。都会でのコロナ禍の生活は大変だったでしょう。ゆっくり過ごしてと、温かい言葉をいただきました」と振り返る。

2023年4月からゲストハウス「8weeks Fujimi」としてAirbnbに掲載を始める

地域に自然になじみながら民泊運営

 現在住むのは、2軒目のゲストハウスとして運営する元ペンションの一軒家。1階をワンフロア貸し切りの宿とし、オーナーの美濃出さんファミリーが2階に住む。そして2025年春には、JR中央本線の富士見駅近くの商店街に3軒目のゲストハウスをオープン。こちらは1階がワインバーで、2階を借り受けてゲストハウスとして貸し出している。「富士見駅近くに宿泊施設が少なかったことや、山のふもとのゲストハウスまでタクシーを使って来てくださる人もいらっしゃって。駅からアクセスのよいところに3軒目をオープンすることができ、地域の方々のご協力をいただきながら運営しています」

2軒目のゲストハウス「Quriu」 

 自分にとってのワークライフバランス

 民泊運営をスタートした当初、保育園の年少だった娘さんは、年長(6歳)になった。移住を目指した大きな要因である「ワークライフバランス」については、どのように感じているのだろうか? 「例えば宿の清掃や接客も、子どもを連れてすることができます。会社勤務ではできないことですし、母親が働いている姿を見せられることは大切な経験だと感じています」。もちろん、仕事場と住居が一緒の場という中で、オンとオフの境がないという面もある。「3軒目の運営をするようになったころからは、地域の方々にも頼れるようになりました。娘も成長しました。どうしても時間のやりくりがつかないときは、Airbnbのサイトで運営するカレンダーを閉じて休業することもできます。地域の方々との交流の中で、いろいろな人の目のある中で宿を整えることができ、子育てと両立することができています」

 移住に挑戦したいけれど悩んでいたら・・・

 「移住」の受け入れには各自治体も力を入れており、関連イベントやホームページでの移住者の体験談紹介なども行っている。しかし、漠然と「移住」に憧れながらも、踏み切れずに迷っている人も少なくないかもしれない。移住への思いや個々のバッググラウンドはさまざまながら、移住に憧れを持つ人へのアドバイスを美濃出さんに聞いてみた。「移住するとしたらこの土地がいいかもしれない、この土地が好きかもしれないな、と感じたら、その土地にまとまった期間滞在してみるのが第一歩かなと思います。わが家も、富士見町を2カ月間体験する中で、ここに移住しようと決めました」。その思いが、1軒目のゲストハウスの名前「8weeks(エイトウィークス)Fujimi」につながっている。「今お迎えしているお客様にも、滞在する中で、ここに住んでみたいなと思ってほしいです。富士見町を知っていただき、富士見町の良さをお伝えしていきたいと思っています」

3軒目の物件「Studio」。1階は店舗、2階を宿泊用として利用