おでかけ

一生に一度は歩くべき世界遺産。自然と神話が息づく熊野古道でご利益を賜る巡礼の旅

古来より“よみがえりの聖地”として信仰を集めてきた世界遺産の熊野古道。熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社・那智山青岸渡寺からなる「熊野三山」を目指す旅は、熊野詣という文化として悠久のときを超え、現在までも人々の心を惹きつけている。今回、かつての参詣者に倣って巡ってみると、ダイナミックな自然、重厚感のある社殿、独自の文化体験など、さまざまな魅力に触れることができた。拝んで、歩いて、また拝む。巡礼の旅の先にあるものとは? 自然と神話が息づく熊野古道へ、いざトリップ!

那智山青岸渡寺の三重塔と名瀑・那智の滝

熊野古道とは? なぜ人々は熊野の地を目指したのか

旅をより深いものとすべく、熊野古道のおさらいをしておこう。熊野古道とは、紀伊半島(和歌山、三重、奈良)に張り巡らされた古い参詣道の総称。自然崇拝を起源とし、古くから「浄化とよみがえり」の聖地として熊野三山を中心に信仰を集めてきた。

皇族や貴族、武士、そして庶民に至るまで、身分階級を問わず多くの参詣者が“祈り”を携え歩き、そしてそれを熊野は分け隔てなく受け入れてきた。熊野を詣でること、それは単なる旅ではなく、自分自身と向き合い、心を整えるための巡礼。

その精神は1,000年以上のときを超えて受け継がれ、現在においても、訪れる人々はこの地での貴重な体験を通じて、各所に根付いている精神に触れることができる。

なお、熊野三山、高野山、吉野・大峯の3つの霊場とこれらを結ぶ参詣道は、「紀伊山地の霊場と参詣道」として2004年に世界遺産へ登録された。

山あいの静寂に身を預けて、熊野詣の起点・本宮
熊野本宮大社・大斎原

創建は紀元前(崇神天皇65年)と伝わる。現在地には明治22年(1889年)に大斎原から遷移した

さて、そんな熊野古道の旅。まず訪れたのは、和歌山県田辺市の山間に鎮座する『熊野本宮大社』。ここ本宮大社は、中辺路や小辺路など、熊野古道のあらゆる参詣道と通じており、多くの参詣者が最初の目的地として目指した場所でもある。

そんなおあつらえ向きな話があるから、ここを旅のスタート地点に決めた。それと、和歌山県の空の玄関口・熊野白浜リゾート空港からアクセスがいいのも、もう一つの理由。

桧皮葺き屋根が印象的な熊野造の社殿/参拝は主祭神が祀られている第三殿から順番に

鳥居の前で一礼をして、参道を進みたどり着いたのは、国の重要文化財にも指定されている社殿。荘厳さと優しさを併せ持っているような独特な雰囲気で、思わずのまれてしまいそうな気が満ちている。

主祭神は「家津御子大神/素戔嗚尊(けつみこのおおかみ/すさのおのみこと)」。呼び方が2通りあるのは、熊野信仰をより広く浸透させるために、熊野固有の神と中央神話に登場する素戔嗚尊を同一視した名残なのだとか。すべての社に手を合わせて、厄除けや縁結びなどのご利益を賜る。

葉書として送れる「ポスト絵馬(800円)」を投函できる

参拝を終えたら境内を散策。ご神木の「多羅葉(たらよう)」は、葉っぱに文字を書くことができる葉書の由来にもなった木。そのすぐそばには、熊野の守り神・八咫烏がちょこんとのった黒いポストも。「黒はすべての色を混ぜ合わせた尊い色で、本宮を象徴する色なんです」と禰宜さん。なんてオシャレな考え方だろう。

「熊野牛王神符(小・1,000円)」は厳格な雰囲気を纏っている/「お守り(小・800円)」は本宮大社を象徴する黒色のものをチョイス

そうそう、熊野三山に訪れたら「熊野牛王神符(くまのごおうしんぷ)」は必ず集めたいと思っていた。“オカラスさん”と呼ばれるカラス文字で書かれた熊野三山特有の御神符で、古くから熊野詣に訪れた参詣者たちが持ち帰ったという。伝統に倣い、御朱印やお守りとともに参拝の証として拝受!

桜の時期の大斎原も美しい

本宮大社をあとにして、少し歩いた先にある『大斎原(おおゆのはら)』へ行ってみよう。近づくほどに存在感を増していく大鳥居は、ビルの11階に相当する33.9mの高さがあり、鳥居としては日本一の高さを誇る。周辺に高い建物がない分、より大きく見える。

流失した中四社・下四社を祀る石造の祠がある。ご利益を授かるためにお参りを忘れずに

熊野川・音無川・岩田川の合流点の中洲にあるここは、かつて本宮大社があった場所(旧社地)。明治22年(1889年)の洪水被害により大部分が流されてしまったそうで、記録によると現在の社殿より数倍の規模があったのだとか。現在に至ってはその光景を見られないけれど、当時の様子を想像して思いを馳せるのは、歴史トリップの醍醐味。

ガラス屋・茶房「靖」

左:「熊野牛ドライカレー(1,300円)」。ミニサラダがついてお得!/右:新宮市発のアロマセラピー用品ブランド・M affablyが展開する「くまのアイス(600円)」。県内でも限られた場所でしか食べられない希少な逸品を味わう

じっくり散策をしていたらお昼どき。地元らしさのあるものを求めて『ガラス屋・茶房「靖」』を訪問してみた。大鳥居を望みながら食事ができるお店の人気のメニューは、熊野牛をふんだんに使用したドライカレー。

「お肉の味わいを十分に味わっていただけるように意識してます」と、調理を担当されている奥様。その言葉通り、肉の旨みをグッと感じられる絶品で、ペロリと平らげてしまった。ごちそうさまでした!

湯の峰温泉

熊野三山が位置する和歌山県は、実は日本でも有数の温泉地。お腹の次は心を満たすため、車で一山越えて『湯の峰温泉』へやってきた。調べてみると、開湯はなんと約1,800年前! 皇族が訪れた記録も残る由緒のある、国内最古クラスの温泉地だという。

湯筒でゆで卵作りを体験! 卵は近くの商店で購入できる(もちろん持ち込みもOK)

湯けむりがモウモウと上がり、町はザ・温泉地な見た目。人だかりができている場所に行ってみると、野菜や卵などを温泉で加熱調理できる「湯筒」を発見。ボコボコと温泉が湧き上がる湯筒に、近くの商店で買ってきた卵をイン。約10分待てばゆで卵ができる。なんて便利な……!

歌舞伎などの物語に登場する小栗判官(おぐりはんがん)が甦った伝説も残る/「つぼ湯(大人800円/12歳未満400円)」の利用は、1組30分の時間・予約制。競争率が高いので早めに訪れて

ここに来たら、参詣者たちが聖地へ踏み入れる前に心身の穢れを落とす、湯垢離(ゆごり)を行ったとされる「つぼ湯」にぜひ浸かりたい。世界遺産のなかで唯一、全身浴ができる激レア温泉で、マニアでなくても1度は入っておきたい一湯。日によっては、1日に7回色が変わることから、“7色の湯”という別名も。

神話が息づく新宮で拝んで、登って、また拝む。
熊野速玉大社

創建は現在より1,900年ほど前の景行天皇58年(128年)

本宮エリアを離れ、車で約50分。熊野川を挟んで三重県と隣り合う新宮市へ。ここに鎮座する、熊野三山の一角『熊野速玉大社』の主祭神は、「熊野速玉大神/伊弉諾尊(くまのはやたまのおおかみ/いざなぎのみこと)」と「熊野夫須美大神/伊弉冉尊(くまのふすみのおおかみ/いざなみのみこと)」。国生みを成し遂げた夫婦神を祀っており、縁結びや夫婦円満のご利益がある。


神々が祀られている社殿は朱色塗り。先ほど訪れた本宮大社の落ち着いた色合いの社殿とは打って変わって、目が覚めるような鮮やかさ! 一方、参拝は本宮大社と同じく、主祭神が祀られている結宮・速玉宮(拝殿)から順番に行っていく。熊野三山と一言で言っても、共通しているところもあれば、一様でもないところもあるのがおもしろいところ。

48羽の烏文字が描かれた「牛王神符・熊野牛王宝印(1,000円)」/「なぎ守(600円)」は可愛らしいデザインとサイズ感

参拝の証として牛王神符・熊野牛王宝印と御朱印、ご神木・梛(なぎ)の葉をモチーフにしたお守りもゲット。梛の葉は葉脈が縦に入っていて、裂けにくく、魔除けや夫婦円満の象徴でもある。かつての参詣者たちも、熊野詣の際のお守りとして、葉を携帯しながら熊野古道を歩いていたそうな。

神倉神社

次に訪れたのは、熊野の神々が天から地上へ最初に降臨した場所だという『神倉神社』。全538段、最大傾斜45度、もはや崖に近い石段を気を付けながら登ること約20分。頂上で待っていたのは、御神体のゴトビキ岩と、新宮市の街並みを見渡せる絶景! ここでしか味わえない特別な神聖さたるや! 頑張って登ってよかったあ。

2,000人以上も参加することのあるお燈祭り/一歩一歩注意しながら階段を下っている自分の横を、祭りの覇者でもある若者が猛スピードで駆け降りていった

神倉神社と切っても切り離せないのが、毎年2月6日に行われる「お燈祭り」。先述の神の降臨になぞらえ、松明を片手にした男たちが頂上からふもとまで一気に階段を駆け下りる神事で、1,400年以上の歴史がある。実際に登った身からすると、にわかに信じられない……(笑)。

香梅堂

左:「鈴焼(20粒入り・400円~)」は、バラまき土産にも◎

体を動かしたので、エネルギーを補充しにいこう。明治元年(1868)創業の老舗の和菓子店『香梅堂』の名物「鈴焼」は、神社の鈴をモチーフにしたひと口サイズの焼き菓子。ふんわり、しっとりとした食感と、卵の優しい甘さでついつい食べ進めてしまうおいしさに一目ぼれ。お土産として迷わずお買い上げ!

古道の先に待つもの。那智で辿り着く熊野の豊かな自然
熊野三山は1日で巡ることもできるけど、その分駆け足になってしまうのも事実。今回のように周辺スポットを含めてじっくりと回るなら、やはり1泊2日、熊野古道を歩くなら2泊3日は見ておきたい。大丈夫、熊野エリアには魅力的な宿がたくさんある。

ホテル浦島

ということで、この日お世話になる宿へ向かおう。生マグロの水揚げ量が日本一の那智勝浦町に位置する『ホテル浦島』は、にこやかな亀の顔の送迎船、マグロの解体ショー、オーシャンビューの客室など、言い尽くせないほどの魅力がある老舗旅館。

天然洞窟温泉の一つ「忘帰洞」からは、太平洋の荒波や日の出を見ることができる

なかでも旅館の顔と言えるのが、天然洞窟温泉! 紀伊半島特有の地殻変動と海蝕によってできた洞窟にて、ゆったりと温泉につかる時間は非日常すぎる。聞けば、熊野詣をしていた貴族たちもここで疲れを癒した記録もあるんだとか。色々とつながっているんだなあ……と、温泉でしみじみ。

大門坂

鎌倉時代にできたという全長約500mの苔むした石畳の道

翌日、早朝にホテル浦島をチェックアウトして、眠い目をこすりながら向かったのは『大門坂』。熊野古道のなかでも、最も象徴的といっても過言ではないスポット。だからこそ日中は人通りが多い。混み合う前の静かな時間帯にこの景色を収めたくて、早起きして向かった。

右:木々の合間から差し込む木漏れ日。絶景はもちろんだけど、この優しく揺れる陽の光も熊野古道の魅力

苔むした石畳の道、その両脇にたくましく生える樹齢数百年の大木たち。数えきれないほどの参詣者たちが、時代を超えてこの道を歩き、この景色を見てきたと思うと、エモい気持ちが湧き上がってくる。はるか昔の人々はここで何を想ったのだろう?

熊野那智大社

創建は仁徳天皇5年(317年)

さあ、まさしく古道と呼ぶにふさわしい道を抜け、長い石段を登り切ると、いよいよ熊野三山の最後の一角、『熊野那智大社』に到着! これまでの道のりも相まって、その佇まいはひときわ神々しく尊く見える。


那智大社の主祭神は「熊野夫須美大神/伊弉冉尊(くまのふすみのおおかみ/いざなみのみこと)」。あらゆる“結び”を司る神とされ、参拝すれば縁結びや夫婦円満のご利益が授かれる。礼殿に向かい、心の中で感謝と願い事をそっと伝えると同時に、「この旅で一体、何回手を合わせただろう?」と我に返った。

神前に立つと、不思議と自分の根っこにある想いに素直になれる。それも回数を重ねるごとに、少しずつ深くなっていく気がしていた。これが現代における熊野詣の神髄なのかも?

左:烏石は人によってどちらに頭があるか解釈が異なる。聖域の本殿エリアにあるため正式参拝などを行ってから/右:胎内くぐりの内部は、とても静かで神秘的な空気に満ちていた

参拝のあとは境内散策へ。樟霊社(しょうれいしゃ)の「胎内くぐり」は、願い事を書いた護摩木を手に、ご神木の樟の内部を通り抜ける体験。さらに境内奥の御本殿域にある「烏石」は、八咫烏が姿を変えたと伝わる石で、第五殿(天照大神を祀る)の前に静かに羽を休めていた。

那智山青岸渡寺

那智山青岸渡寺の三重塔と那智の滝は一緒に写真で収めておきたい

『那智山青岸渡寺』は、熊野信仰と神仏習合の歴史を今に伝える名刹。隣接する那智大社とともに「熊野三山」の一角をなし、那智の滝を間近に望む三重塔の景観は熊野古道の象徴的な存在。神社と寺が一体となって信仰を育んできた地であり、明治の神仏分離を経た今も、その結びつきの面影を色濃く残している。

飛瀧神社

前日などの降水量によって水量は変化する。この日はちょっと少な目。いつもは3つの筋で水が落ちる

いよいいよ旅も大詰め。フィナーレは那智大社の別宮『飛瀧(ひろう)神社』で飾ろう。ご神体は日本一の落差約133mを誇る那智御瀧で、目の前に立つと轟く水音としぶきが伝わり、すさまじい迫力に圧倒される! “自然崇拝”の精神を象徴するこの光景を見ると、巡礼の達成感に包まれていく。

「熊野牛王神符・烏牛王神符(1,000円)」は那智御瀧の水で摺られた墨で烏文字が記されている/那智大瀧の落ち口に掛けられている注連縄のさらしを利用した「注連縄守(800円)」は、ここならではのお守り

那智大社で熊野牛王神符・烏牛王神符も忘れずに賜り、これで三山すべての熊野牛王神符をコンプリートした。並べて見てみると、なんだか強い力を授かったような気になる。と同時に、これだけのご利益をいただいたのだから、恥のない毎日を送らなければ、という気もじわじわと湧いてくる。よし、しかと頑張ります!


さて、これにて旅は終結。今回は熊野本宮大社を起点とした巡り方をしたけれど、実は、熊野三山には訪れる順番や行かなければいけない場所、なんて明確な決まりはない。これまで度々触れてきたように、熊野はとにかく器が広い。どんな参り方をしたって受け入れてくれる。だから、自由な計画を立てられるのも熊野三山巡りのいいところ。

また、“伊勢に七度、熊野に三度”という言葉があるように、熊野は何度訪れてもいい場所。足を踏み入れる度に、新しい発見があるし、より一層理解も深まる。例にもれず筆者も、「今度は高野山を経由して熊野古道ををがっつり歩きたいなあ」なんてことを、帰りの飛行機で考える。それほど、熊野古道は人を惹きつける魅力が溢れている。

[photo tsuchida・(公社)和歌山県観光連盟・熊野本宮大社・熊野本宮観光協会・ホテル浦島]

熊野本宮大社
和歌山県田辺市本宮町本宮
0735-42-0009
8:00~17:00

ガラス屋・茶房「靖」
和歌山県田辺市本宮町本宮294
0735-42-0147
9:00~17:30(L.O.17:00)
定休日:水・不定休

湯の峰温泉
和歌山県田辺市本宮町湯峯
6:00~21:00(つぼ湯)
定休日:不定休

熊野速玉大社
和歌山県新宮市新宮1番地
0735-22-2533
8:00~17:00

神倉神社
和歌山県新宮市神倉1-13-8

香梅堂
和歌山県新宮市大橋通3-3-4
0735-22-3132
定休日:公式Instagram参照

ホテル浦島
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町勝浦1165-2
0735-52-1011

大門坂
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山

熊野那智大社
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山1
0735-55-0321
8:00~16:30

那智山青岸渡寺
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山8番地
0735-55-0001
7:00~16:30

[取材協力]
(公社)和歌山県観光連盟
熊野本宮観光協会
熊野本宮大社
ガラス屋・茶房「靖」
熊野速玉大社
香梅堂
ホテル浦島
熊野那智大社


TABIZINE
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