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「どうする家康」第9回「守るべきもの」一揆の苦い経験で家康が得た学び【大河ドラマコラム】

 上に引用したせりふは、それにも通じる。そのため家康は、正信に「とうに悔いておる。わしは、ずっと悔いておる」と答える。そして、さらにこう付け加える。

 「だが、この国を立て直さねばならぬ。そのために、過ちを全て引き受け、わしは前へ進む」

 フランス語に「ノブレス・オブリージュ」という言葉がある。「身分の高い者には、果たすべき義務と社会的責任がある」という考え方だ。

 全てが片付いた後、妻の瀬名(有村架純)に「わしが守るべきものは、民と家臣たちであったというのに」と語っていたように、ここで家康が学んだことは、まさにこの「ノブレス・オブリージュ」に通じるのではないだろうか。

 こうして、一揆という苦い経験を通して学びを得た家康の下、改めて結束を固めた家臣団は「厭離穢土欣求浄土」(「汚れたこの世を、浄土に」の意)の旗を掲げて再び立ち上がった。これから家康は、それを目指して進んでいくに違いない。

 だが、家康自身が「そんな大それたこと、できるのかな、このわしに」と不安を口にしていた通り、戦乱が続く世で、その理想を貫くのは容易ではない。新たな学びを得た家康が、これからいかに歩みを進めていくのか。その行方を見守っていきたい。

(井上健一)