X

「どうする家康」第19回「お手付きしてどうする!」女性たちのたくましさを象徴するお万の言葉【大河ドラマコラム】

 「男どもは、己の欲しいものを手に入れるために、戦をし、人を殺し、奪います。おなごはどうやって? 人に尽くし、癒やしと安らぎを与えて、手に入れるのです。おなごの戦い方のほうがよほどようございます」

 NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。5月21日放送の第19回「お手付きしてどうする!」では、三方ヶ原の合戦を終えた主人公・徳川家康(松本潤)と側室・お万(松井玲奈)の出会いが描かれた。

徳川家康役の松本潤(左)とお万役の松井玲奈 (C)NHK

 三方ヶ原で惨敗した家康は、武田軍の撤退もあり、浜松城でひと時の安らぎを得る。その際、風呂の世話をしてくれたのが、侍女のお万だった。やがてお万は家康の子を身ごもるが、それを知った家康の正室・瀬名(有村架純)は激怒する。

 自らお万と対峙(たいじ)した瀬名は、それが戦で失ったものを取り戻そうとしたお万の計略だったことに気付く。冒頭に引用した言葉は、その際、瀬名に向かってお万が語ったものだ。

 これを聞いて思い出したのが、第4回「清須でどうする!」でお市(北川景子)が家康に語った次の言葉だ。

 「乱世とは、まことに愉快な世であることよ。力さえあれば何でも手に入る。力さえあればどんなに大きな夢も描ける。愉快この上ない!」

 そして最後に、こう付け加えている。「ただし、男であればな…」

 お市のこの言葉は、この回のお万とは対照的だ。織田信長(岡田准一)という希代の傑物を兄に持つお市は、育ちの良さもあり、当時の常識から外れることなく、女に生まれたことを嘆く。だが、神主の娘に生まれ、戦で全てを失ったお万はずっとしたたかだ。

 瀬名から、「殿から金子(きんす)をふんだんに頂くがよい。その金で、この子を立派に育てよ。焼けた社(やしろ)も再建するがよい」との言葉を得たように、巧みに家康に接近し、欲しい物を手に入れて生き抜いていく。

 振り返ってみれば、本作に登場する女性たちは、みんなたくましい者ばかりだ。第3回「三河平定戦」で、瀬名を人質に取った今川と織田の板挟みになった家康に、「主君たる者、家臣と国のためならば、己の妻や子ごとき、平気で打ち捨てなされ」と今川からの離反を勧めた母・於大の方(松嶋菜々子)。

 第4回「清須でどうする!」で兄・信長から家康との結婚を勧められた際、瀬名を今川に残してきた家康を思いやり、自らそれを辞退したお市。

 第10回「側室をどうする!」に登場し、家康の側室となって子を産んだ後、自らの生き方を貫いたお葉(北香那)。

 第14回「金ヶ崎でどうする!」で、家康に浅井の裏切りを知らせたお市の侍女・阿月(伊東蒼)…。

 優柔不断な家康は、彼女たちにたびたび窮地を救われてきた。サブタイトルに「どうする」がつく回はこれまで7回あるが、前述の通り、この回を含めてそのうち4回は女性たちが重要な役割を担っているという事実が、そのことをよく表している。

 そして、女に生まれたことを嘆いていたお市も、3人の娘、茶々、初、江が戦国時代の幕引きに関わることはよく知られている。

 中でも、三女の江は江戸幕府2代将軍・徳川秀忠の正室、そして3代将軍・徳川家光の母となり、天下を手にする。つまり、「力さえあればどんなに大きな夢も描ける」というお市の言葉を、娘がかなえることになる。

 ここで再びこの回のお万の言葉を振り返ってみると、瀬名との対話の中で、次のように言い残している。

 「私は、ずっと思っておりました。男どもに戦のない世など作れるはずがないと。政(まつりごと)もおなごがやればよいのです。そうすれば、男どもにはできぬことが、きっとできるはず」

 本作における女性たちの活躍を踏まえると、逆境をたくましく生き抜いたお万のこの言葉の説得力はさらに高まる。そしてそれは、娘がその夢をかなえたお市にも通じる。決して「男であれば」と嘆く必要はないのだ。

 戦国という厳しい時代を生きた女たちのたくましさ。それは私たちに、生き抜くことの尊さを教えてくれているのではないだろうか。

(井上健一)

お万役の松井玲奈(左)と瀬名役の有村架純 (C)NHK