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世界遺産に湧く名湯! 温泉成分コテコテ湯口に癒やされる「温泉津温泉 薬師湯」 【コラム:おんせん! オンセン! 温泉!】

(島根県大田市 温泉津温泉)
(島根県大田市 温泉津温泉)

 2023年現在、日本には25件の世界遺産があります(文化・自然含む)。その深い歴史や雄大な自然に触れることで、大きな学びにつながったり、非日常を体感できたりしますよね。今では手軽に訪れることができることから、旅行の目的地として世界遺産を選ぶ方も多く、旅行会社が企画する「世界遺産ツアー」も人気のようです。そんな世界遺産の旅の中に、旅の醍醐味(だいごみ)の一つである温泉があれば、さらに魅力的になるのではないでしょうか。

 島根県大田市の石見銀山周辺は、2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」として、世界遺産に認定されました。今回は、その世界遺産エリアの中に湧く「温泉津(ゆのつ)温泉 薬師湯(やくしゆ)」をご紹介します。

温泉津温泉街の街並み
「温泉津温泉 薬師湯」外観

 温泉津温泉は、石見銀山遺跡から車で30分ほど走った海沿いにある温泉地。1300年以上の歴史を誇り、かつては石見銀山産出の「銀輸出港」として栄えたことから、世界遺産エリアの一角として認定されています。つまり、世界遺産で温泉に入ることができるのです。世界的にも珍しい温泉です。

 レトロな温泉街は今も20軒前後の宿や食事処、お土産屋が並び、ノスタルジックな世界観を残しています。今回ご紹介する「薬師湯」は、温泉街に2軒存在する共同浴場の一つ。レトロな洋風の外観や館内は、大正ロマンを感じさせる雰囲気です。

「内湯(一般湯)」全景

 浴室は男女別の内湯(一般湯)のほか、本館と別館にそれぞれ貸切湯があります。

 男女別の内湯(一般湯)は、楕円(だえん)形の浴槽が一つのシンプルなつくりです。4、5人が入れるくらいの大きさで、その湯船のフチから浴室の床にかけて、温泉成分の析出物が堆積。茶色くツヤツヤに分厚くコーティングされ、千枚田のような圧巻の光景が広がっています。

コテコテに析出した芸術作品

 泉質は、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉。加水、加温、循環、消毒なしの「完全かけ流し」です。ウグイス色の美しいにごり湯は、フレッシュな金気(かなけ)とミネラルたっぷりな重たい鉱物臭。舐(な)めるとうま塩ダシ味で、高級料亭の土瓶蒸しのような味わいです。キシキシと引っかかる感触は成分の濃厚さが感じられ、グッとお湯に包み込まれるような浴感です。湯船の温度は熱めではありますが、一度お湯に身を沈めるとじわじわと身体に馴染んでくる感覚が至福。湯上りは芯まで温まったことを実感でき、スッキリとした爽快感もあります。

大浴場(一般湯)の「湯口」

 そんな上質な源泉を注いでくれる湯口は、つぶらな瞳がチャーミングなナマズの形です。析出した温泉成分でクリーム色にコーティングされ、ナマズの口周りもガビガビに。温泉津温泉の源泉の濃厚さを感じられる光景が美しいですね。

 薬師湯の源泉は、1872年に起きた浜田地震の後に湧き出したのだそうです。それにあやかり、「震湯(しんゆ)」とも名付けられています。そんなエピソードにちなんで、湯口は「ナマズ」になったのだとか。深いストーリーを感じながら、湯口アートを鑑賞できる素敵な温泉です。

「貸切湯・別館」全景
貸切湯・別館の「湯口」

 湯口なら、大浴場(一般湯)と別料金になりますが、薬師湯本館の建物から道路を挟んだ向かい側に建つ別館もおすすめです。

 その見た目は、まさにモンスターレベル。元々はつるんとしたホールの形だったそうですが、少しずつ成長し、今では、強く重く分厚く、析出物でゴリゴリになったその姿は圧巻です。

 温泉津温泉は石見銀山遺跡の世界遺産エリアにある温泉ですが、こちらの湯口単独で「世界遺産」に認定してほしい。最高の絶景をありがとうございます。

記念に一枚

 

【温泉津温泉 薬師湯】

住所 島根県大田市温泉津町温泉津

電話番号 0855-65-4894

【泉質】

ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(低張性 中性 高温泉)/泉温45.3度/pH:6.3/湧出状況:自然湧出/湧出量:不明/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全かけ流し

【筆者略歴】

小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,400以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。