しかも、「武田を滅ぼしに来たんじゃ」と語った通りの大勝利を手にしただけでなく、それが家康に力の差を思い知らせ、臣従を受け入れさせることにもつながった。
さらに信長は、この後、自分の娘で信康の妻・五徳(久保史緒里)に徳川家の監視を命じ、合戦を繰り返すことになった信康を精神的に追い込むなど、物語にいくつもの転機をもたらした。
ことあるごとに「どうすりゃええんじゃ!」と悩む家康に比べると、最小限の行動で物語を大きく動かす信長の有無を言わせぬ存在感は際立っている。
これまでも信長は、「鷹狩り」と称して家康を呼び寄せて謀反人の存在を伝え(第7回)、姉川の戦いでは浅井軍への攻撃をためらう徳川軍に銃弾を撃ち込んで決断を迫る(第15回)など、たびたび家康に行動を促し、物語を動かす役回りを担ってきた。
これから“本能寺の変”に向け、その存在はますます大きくなっていくに違いない。信長がいかに物語を動かし、その中で家康はどう立ち回っていくのか。その行方を期待して待ちたい。
(井上健一)