■認知症とはなにか
認知症とは、「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって、持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障を来たす状態」を言います。国際疾病分類(ICD-10)は「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群」と定義しています。
厚生労働省の研究班によると、認知症の高齢者は2025年には471万6000人、2040年には584万2000人と推計しています。2040年の推計は高齢者のおよそ15%、6.7人に1人が認知症と推計されます。また、物忘れなどの症状はあるものの、生活に支障がなく、認知症と診断されるまでには至らない「軽度認知障害」の推計を初めて公表し、2040年には612万8000人にのぼるとしています。合計すると、1197万人です。総務省自治行政局は、2040年の人口を1億833万人と推計していますので、国民の1割以上が認知能力に問題があることになります。
認知症は2004年 (平成16年)12月24日から使われた用語ですが、それ以前は痴呆症と言われていました。痴呆症は、単なる物忘れがひどくなった状態で年を取ると誰でも起こるという印象でしたが、認知症は脳の異常を広範囲に捉えた用語です。認知症は、今や社会問題と言えます。
寝不足による影響は、若い時からの生活が背景にあります。詳しくはJIJICO内にあるコラム「青春時代の体力転換期は26歳?体力低下を防ぐ秘訣はあるのか!?」をご覧いただきたく思います。
■認知症になる人は熟睡できない?
年を取ると早く目が覚める、あまり熟睡できないという話を聞くのではないでしょうか。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、認知症の中で最も多い疾患は、物忘れ(記憶障害)が緩徐に進行するアルツハイマー病です。アルツハイマー病にはアミロイドβタンパク質やタウタンパク質の脳内蓄積が関連すると考えられています。記憶障害が現れる数十年前からアミロイドβタンパク質やタウタンパク質の蓄積が始まり、約10年遅れて脳萎縮が生じるといわれています。タンパク質蓄積が、睡眠に関連するかも知れないとして、注目が集まっています。
アルツハイマー病の準備因子として、睡眠時間の不足(6時間未満)・過多(9時間以上)、概日リズム睡眠・覚醒障害や閉塞性睡眠時無呼吸が示唆されており、睡眠が脳内におけるアミロイドβタンパク質の産生・排出と関わることは、機序の1つと考えられています。
イタリアの研究では、軽症アルツハイマー病の約6割が何らかの睡眠障害を有していると報告しています。上記研究参加者の約2割の人が、夜に上手く眠付けない・朝早く目覚める・昼寝時間が長いと報告しています。我が国の研究でも類似の結果が報告されており、上記訴えを示す割合は認知症重症度が上がるにつれて増加します。これは、睡眠-覚醒リズムが不規則となり、夜間にまとまった睡眠がとれない概日リズム睡眠・覚醒障害(不規則睡眠・覚醒リズム障害)を併発した結果と考えられます。
睡眠障害は認知症に伴う症状(興奮、徘徊など)の出現リスクを高めると考えられます。
■夜遅い食事は睡眠不足を引き起こす
睡眠は、脳の視床下部や脳幹によって制御されています。視床下部の前部には「睡眠中枢」があります。視床下部の後部から脳幹にかけて「覚醒中枢」があります。この2つの中枢が睡眠モードのバランス調整をしています。それに関与しているオレキシンが睡眠薬として使われています。睡眠モードでは、オレキシンがあまり放出されていません。少しずつ睡眠のメカニズムは解明されて来ていますが、はっきりとしたことはまだわかっていません。
睡眠障害を引き起こす原因はさまざまですが、現代人に多い夜遅い食事は睡眠不足を引き起こす要因の一つと考えられます。特に、22時以降に食事すると、一番眠くなる23時前後の時間帯に、内臓の活動を強いります。睡眠は90分周期で、「眠い・眠くない」を交互に繰り返していますので、次に眠くなる時間帯は0時30分頃になります。仮に、食後に入浴していると、入浴して体温が一旦上昇した後に眠くなる時間は、約2時間後くらいですので、その次の時間帯(90分後)である2時頃にならないと眠くならないことになります。睡眠の質が低下して、内蔵の疲労が解消されないまま、翌日を迎えることになります。起床時間が7時だとすると、睡眠時間は5時間から6時間30分程度になります。
睡眠不足は、認知力が低下します。10年以上同じ生活をすると、脳の萎縮が始まり、「軽度認知障害」の予備軍になりかねないと言えます。
不眠に関する詳細を知りたい人は、JIJICO内にあるコラム「不眠は夜遅い食事が原因かも?不眠解消に必要なことは」をご覧いただきたく思います。
■早食いは消化に時間がかかり内臓疲労を起こす
日本人は、食事の時間を削ってまで仕事をする人が多い民族かも知れません。早食いは、その一例です。早食いをしている人は、総じて食物を良くかまないで飲み込んでいると言えます。
私の父親は、食事の際、「ご飯を一口入れたら箸と手を膝の上に置き、30回以上かみ、その後に飲み込みなさい」と教育しました。玄米は、そのぐらい噛まないと飲み込めませんので、食事の時間は30分以上かけていました。良く噛むと唾液が出ます。唾液が出ると、胃液等の消化液が次々連動して出てきますので、消化活動には最適な食べ方です。
食事時間が30分の人と5分食べて25分休んだ人の活動力は、前者の方が良いというデータがあります。早食いすると、消化液が連動して出てきません。そのため、消化するためには、内臓に無理がかかります。消化時間も長時間に及びますので、早食いは内臓の疲労を生みます。
また、早食いは、満腹感を得る前にたくさん食べることが可能ですので、食べ過ぎる傾向にあります。仮に、22時以降にたくさん食事すると、内臓の疲労を助長します。睡眠不足につながり、認知力の低下が加速します。夜遅く早食いをする人は、「軽度認知障害」へ繋がらないように、小量をゆっくり噛んで食べるようにする必要があります。
高齢になると、歯の数が減少して、噛むこと自体が困難になりますので、口腔内環境を整えることが必須です。噛むことに対してご興味がある人は、JIJICO内にある下記コラムをご参照いただきたく思います。
自立した生活が困難になるのは85歳!? 80歳になったら手を振って歩き 良く噛む事をこころがけましょう
■食事は座ってゆっくり噛みましょう
昭和40年代の高度成長期には、立ち食いのお店が次々出来ました。今でも、駅には立ち食いそばのお店がたくさんあります。少しでも短い時間に食事を済ませようとする日本人のニーズに合った食事スタイルと言えます。最近は、立飲みや立ち食いのレストランまでありますが、長時間の食事には向かないのではと思ってしまいます。店側の思惑は違うのでしょうね。
昔は「立って食べることはお行儀が悪いから座って食べなさい」と躾(しつけ)られました。躾とは、身体が美しいと書きます。躾の内容は、体の働きに良い影響を与える生活スタイルです。立って食事をすると胃が下方へ下がり、消化に時間を要します。座ると骨盤が安定して、内臓の位置が固定されますので、消化活動が安定します。
立ち食い、早食い、大食いをすると、胃に血が集まり脳の血流量が減少するため、頭が働かなくなり眠くなりますので、食後の認知活動は低下します。消化活動は、肝臓、腎臓、心臓、肺蔵や脾臓・膵臓のほか胃腸にも負担がかかります。長時間の消化活動は、内臓の疲労を生みます。10年以上同じ生活を継続していると、徐々に「軽度認知障害」への道を歩んでいることに繋がっているかもしれません。
認知症は、糖尿病、肥満、脂質異常症や高血圧などの人が発症しやすいと考えられています。体の老化は、20歳代から始まっています。認知症の発症年代は60歳代以降に多い病気ですが、40歳代でも見られる症状です。夜遅い食事、飲酒や寝不足をしやすい年代は20歳代から50歳代です。認知症を他山の石と思わず、若い世代から健康管理は必要です。
40歳代50歳代の生活は、その後の人生に大きな影響を及ぼします。JIJICO内にある下記コラムを参考にしていただきたく思います。
体力の衰えは40歳からではない!? 筋力低下防止の秘訣はある?
50歳は人生120年の折り返し前!?この年代に注意すべきことは肥満?
■生活習慣がもたらす病気の発症時期は23年から27年後
40年以上毎日病気の背景にある生活習慣を問診していると、病気の発症時期に相関性があることがわかります。内科疾患において、急性症状の原因を考える際、当日や前日の生活が関係することはもちろんですが、直近2週間の生活が大きく関与します。その間に思い当たることがなければ、3か月程度に広げて考えます。大抵その期間に原因があります。慢性症状の場合は、1年、3年、7年、13年、17年位の生活習慣が関係あります。細かく問診すると、おおむねこのくらいの期間が、病気と関係があります。
しかしながら、本人が自覚しないまま行っている生活習慣の場合、23年から27年程度経過した後発症する例が数多くあります。認知症はその一つの例と言えます。見方を変えると、30年以上なんの症状もなく健康で過ごせているライブスタイルは、自分の体に合っているか、もしくはとても丈夫な体の持ち主ということになります。
寝不足、早食いなどがもたらす睡眠障害のほか、運動不足、夜遅い入浴、寒い時期の朝風呂、夜間の水分摂取過多、薬物の乱用など、現代社会における文明の豊かさがもたらした弊害が、数多くの生活習慣病を生み出しています。健康に良いと思って行っていることが、実は逆効果だったということは少なくありません。気になる症状が出てきたら、JIJICO内のコラムを参考にして生活習慣を改めていただくか、専門医の受診を推奨します。
薬物の使用に関しては、下記コラムを参考にしていただきたく思います。
体の不調を薬で抑えることは危険!? 病気回復に必要な考え方は質より量!!
鎮痛薬の飲みすぎで頭痛が起きる!?薬に頼らない頭痛対策は?
■鍼灸治療や瘀血(おけつ)治療は不眠でお悩みの人のお手伝いが出来ます!!
基礎疾患を持つ人の不眠に、鍼灸治療や瘀血治療は有効です。寝不足による不調は、2~3回治療して戴ければ、すっきりします。不眠症状が軽度の人は週1回、中等度の人は週2回、重度の人は週3回~4回根気良く治療すると症状が軽減または消失することを実感いただけると思います。基礎疾患をお持ちの方は、週に1~2回 3~4か月治療していただけると内臓が強化されますので、病気が改善されるに連れ、熟睡できるようになります。熟睡できるようになると、頭がすっきりして、認知力が向上します。
不眠でお悩みの人は、お近くの鍼灸院または鍼灸師が勤務している医療提供施設にご相談いただきたく思います。鍼灸治療や瘀血治療は、身体の外側から内臓機能に働きかけることが可能な「内外科治療」です。薬物治療(内科治療)で効果を得られない人や外科手術(外科治療)をしても症状が消失しない人は、是非鍼灸治療(内外科治療)をお試しいただきたく思います。
不眠解消の運動法には、ヨガ(YOGA)がお勧めです。ヨガ(YOGA)の運動法と呼吸法を身に付けることによって、不眠の予防や治療に繋がります。清野が呼称する養正(ようせい)治療は、日常の適正な生活です。詳しくお知りになりたい方は、清野鍼灸整骨院ホームページ「くらしと養生」をご参照ください。
<筆者略歴>

清野 充典:鍼灸師 1982年、西洋医学を理解した東洋医学者の育成を目指し世界で初めて設立された鍼灸医学専門教育機関「明治鍼灸短期大学(現明治国際医療大学)」鍼灸学部を卒業。1987年2月2日、東京都調布市で清野鍼灸整骨院を開院。明治国際医療大学客員教授、早稲田大学特別招聘講師等歴任。
「鍼灸を国民医療」にすべく、東京大学、早稲田大学、順天堂大学等の日本国内を始め、海外の様々な大学や医療機関の人たちと研究を進めている。
1991年には、東京都府中市で分院の清野鍼灸整骨院府中センターを開設。1985年から清野メディカルヨーガ/清野ヨーガ道場を主宰し、保健活動を行っている。毎週木曜日に「ヨーガ教室」を開催して、多くの人に東洋医学に基づいた健康管理方法を伝えている。
清野 充典:鍼灸師
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