この度、初アルバムを2枚リリースした。雅楽器の笙(しょう)でバッハ、ドビュッシー、ピアソラなど時代もジャンルも越えて収録したアルバム「阿(あ)」と「吽(うん)」。
ジャケットやブックレットの絵画を、新進気鋭のアーティスト真田将太朗さんにお願いした。東京藝大を卒業し、現在は東大で人工知能の研究をしながら抽象画家として大活躍されている。
「阿」と「吽」で、動と静、対比するイメージを表現したいと考えていた時、はじめに思い浮かんだのが真田さんだった。彼の作品は見ている間、時の経つのを忘れるほど深さと広がりを持つ色彩で埋め尽くされている。代表作である抽象画のシリーズ名は「Landscape」。風景をモチーフに時間的・空間的な観点から抽象画に落とし込む。
私はもともと陶器が好きなのだが、彼の絵を見るときの感覚は焼き物を鑑賞するときのそれに近いかもしれない。色彩の微妙なゆらぎの中に、鮮やかな景色が立ち現れる。アルバムそれぞれのイメージを色彩で表現するのにこれ以上の人はいない。ダメ元で連絡してみると意外にも「いいですね! やりましょう」と返事が来た。軽い。いいんだ。すごい。うれしい。
せっかくなのでライブペインティングで描いて頂くことにした。私がCD収録曲を吹き、その横で演奏を聴いて受けた印象をもとに真田さんに絵を描いてもらう。イベント当日、会場となる藝大アートプラザにぎゅうぎゅうにお客さんが集まった。アルバム2枚分、2枚の絵画で1時間半。65センチ四方のキャンバスにどんどん色が載っていく。
あとから動画を見たら、私がドビュッシーの「月の光」を吹いていたとき、真田さんがキャンバスの右上から金色の絵の具をハケでスーッと降ろしていた。ああこの金色は月の光だったんだ、とそれを見て気が付いた。完成した作品を見るのが楽しみで演奏中は目をつぶっていたのだ。演奏が終わって絵を目にしたときは心から歓声を上げてしまった。
「普段は具体物の風景を抽象画にするけど、音楽から絵だと〝抽象から抽象〟だからちょっと感覚が違いました」と真田さんが語ってくださった。自分の演奏した音が他者のフィルターを通してまた別のアートになる。こんなに面白い経験は無かった。
笙の魅力の見本市を作りたいという思いから製作を始めた「阿」「吽」。このアルバムが笙の世界に新しい景色をもたらせたら、とても嬉(うれ)しい。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 34からの転載】
かにさされ・あやこ お笑い芸人・ロボットエンジニア。1994年神奈川県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のアプリ開発などに携わる一方で、日本の伝統音楽「雅楽」を演奏し雅楽器の笙(しょう)を使ったネタで芸人として活動している。「R-1ぐらんぷり2018」決勝、「笑点特大号」などの番組に出演。2022年東京藝術大学邦楽科に進学。