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若月佑美、デビュー10年で感じた変化「人を頼ることが増えた」【インタビュー】

 俳優としてドラマ「今日から俺は!!」や「共演NG」、『劇場版ラジエーションハウス』など多数の話題作に出演し、存在感を発揮する若月佑美。6月10日から開幕する舞台「薔薇王の葬列」では、二つの性を持つ主人公・リチャードを有馬爽人とダブルキャストで演じる。デビューから11年目を迎えた今、改めて俳優業への思いや、今後の目標、そして本作への意気込みを聞いた。

若月佑美 (C)菅野文(秋田書店)/舞台「薔薇王の葬列」製作委員会

-「薔薇王の葬列」は、シェークスピアの戯曲『ヘンリー六世』『リチャード三世』を原案として、15世紀のイングランドで起こったヨーク家とランカスター家による「薔薇戦争」を背景に、大胆なアレンジを加えて描かれた菅野文さんによるコミックス。今回、放送中のTVアニメ版を原作に、初の舞台化となります。若月さんは、男女二つの性を一つの体に宿しているリチャードという非常に難しい役を演じますが、現在、どのようなところを意識して稽古に臨んでいますか。

 男性と女性が同じ役にダブルキャストとして配役されていることで、表現できる幅も広がっていると感じています。特に、(リチャードが心を通わせる)ヘンリーと会話しているときに出る女性の部分と、(リチャードに思いを寄せる)アンと一緒に過ごすときに出る男性の部分のバランスをうまく取れたらと思っています。私自身は女性なので、どうしたら男性らしく見えるのかは、今、稽古をしながら研究しているところです。

-ダブルキャストの有馬さんとは、役について話し合うこともありますか。

 話し過ぎてしまっても面白さがなくなってしまうと思うので、どう感じているかという部分までは共有していませんが、「リチャードってこういう人だよね」「こういう考え方をするよね」という話は顔を合わせればしています。有馬さんは、私にはない、たけだけしさを持っているので、そうした部分は特に学ばせていただいています。

-男性と女性が同じ役を演じるからこそ、よりそれぞれの魅力が際立つ作品になりそうですね。

 演出の松崎(史也)さんは、俳優の思いを尊重してくださる方なので、私が演じるリチャードと有馬さんが演じるリチャードが一緒じゃなくてもいいと考えてくださっています。例えば、私が怒る芝居をするシーンで、もし、有馬さんがそのシーンを悲しいと感じるならば、悲しい芝居のままでいいとおっしゃってくださいました。それから、ヘンリーとの距離感についても、私が演じると、どうしてもお客さんからは男女の関係に見えてしまいやすいので、バランスを取って、有馬さんはもっと近距離でお芝居をするという調整をしてくださっています。ぜひお客さまにも、「若月バージョンだとこうだったけど、有馬さんバージョンだとこう違うんだ」と、細かい部分まで見ていただけたらうれしいです。

-若月さん自身はリチャードに対して、共感できるところはありますか。

 コンプレックスに対して苦しむ気持ちは理解できます。ただ、私はコンプレックスは別の見方をすれば、決してその人にとって悪いことだけだとは思いません。リチャードは、二つの性を持っていることを思い悩み、「どちらにもなれない」と苦しんでいますが、逆に言えば、それは、どちらも持っている選ばれた人間だとも思えます。私自身、声が低いことがコンプレックスですが、そこが魅力だと言ってくださる方もいるので、そういう意味では同じように悩んでいるのかなとも思います。

-ところで、昨年はデビュー10周年を迎えました。改めて、この10年間を振り返ってみて、どんな思いがありますか。

 あっという間だと感じますが、思い出せないほどの思い出があるので、そう考えると、とても長い10年だったのかなとも思います。10年分の力量が、今の自分にあるのかと聞かれたら、正直分かりませんが、これから年齢を重ねた時にこの仕事をやっていてよかったと言えるように、もっともっと頑張らなければいけないと今、思っています。

-俳優として仕事をスタートした時と今とでは、ご自身の中ではどのような変化がありましたか。

 まず、役への向き合い方は大きく変わり、自分が演じる役の味方でありたいという思いが強くなりました。例えば、凶悪犯を演じるときは、どこかで、人を殺すことや、演じる役に対して「それはちょっと…」と思ってしまったときがあったんです。嫌われ役や犯人役は、絶対に視聴者の方は嫌いになりますよね。ですが、そうなったとき、演じる俳優しかその役に寄り添える人はいないんです。だからこそ、その人物がどうしてそういう行動を取ったのか、理由を考えるようになりました。

 それから、いい意味で、人を頼ることが増えました。これまでは、自分の役について人に聞くことに申し訳ない思いがあったんです。自分の役のことぐらい、自分で考えなくちゃいけないと、どこか思っていて。ですが、今は、聞くことで知れることも多いと気付いたので、臆さずに「私の役のこのせりふって、どういう気持ちで言っていると思いますか」と先輩たちに聞くことができるようになりました。

-思いが変わるきっかけがあったんですか。

 いろいろとありましたが、特に大きかったのは、「アンラッキーガール!」(21)というドラマでした。彼氏役を板垣瑞生さんが演じてくださったのですが、私が演じた香が彼氏を振るというシーンのせりふが、「どうして別れる彼氏にこんなことを言うんだろう」と不思議だったんです。それを、板垣さんにポロッと話したら、男性として見たらどう聞こえるかを教えてくれました。若い彼氏という設定で、実際の年齢も板垣さんの方が若かったので、「若い男の子にこの言葉を言うとどう感じる」「こういうせりふを言って別れを切り出されたら、こう感じる」と話してくれ、私には気付かない視点だったと驚いたのを覚えています。そのときから、いろいろな年齢の方、そしていろいろな立場の方に聞くことで、自分にはない考え方も知ることができると思うようになりました。なので、最近は、いろいろな方に聞くようにしています。

-今後の目標は?

 いつかは人を助けられる俳優になりたいなと思います。もちろん作品を見ていただいてお客さまの心を軽くできたらという思いもありますが、私が先輩方にアドバイスを頂いたり、助けていただいているように、私もお芝居で仲間を支えてあげられる人になりたいです。

-最後に読者にメッセージを。

 壮大で美しい世界観の作品です。舞台の基となるアニメの原作コミックスは、シェークスピアの物語をイメージして作られているということもあり、心に響く、ハッとさせられるせりふもたくさん出てきます。ですので、ファンタジーの世界に飛び込もうという気軽な気持ちで来ていただいて、何か一つでも心に言葉を残して帰っていただけたらと思います。見どころは満載過ぎるぐらい満載です。ぜひ劇場で一緒に世界を共有していただけたらうれしいです。

(取材・文/嶋田真己)

舞台「薔薇王の葬列」 (C)菅野文(秋田書店)/舞台「薔薇王の葬列」製作委員会

 舞台「薔薇王の葬列」は、6月10日〜19日に都内・日本青年館ホールで上演。
公式サイト https://officeendless.com/sp/baraou_stage/