-なるほど、それは本当に全てを懸ける気持ちで臨まないといけないということですね。 ただ、同時に芝居をする楽しさもあるのでは?
そう感じられるようになったのは、つい最近ですが(苦笑)。バンドデビューと同時にハリウッドデビューもしちゃったんですよ(笑)。バンドデビューしたときにアメリカ映画のお話もいただいて。そのときは自分に合わせて作っていただいたんで、演じているのか、演じていないのか分からないような演技で、自然にやらせていただくことができたんです。今思えば、それで勘違いしたんですね。その後も、舞台や映画の話をいただいたので出ていたんですが、いくらやってもだめ。何度やっても演技は難しいなと思っていました。それで最近、あるドラマに呼んでいただいたときに、せりふの覚え方を変えたんです。キャラクターの背景を考えることにしたんですよ。血液型が何型で、どんな過去があってと、全部設定を考えて、自分の演じる役以外のせりふも全て読むことにしました。樹木希林さんが生前に、「自分のせりふにはマーカーをつけない。自分のせりふ以外も目を通してやるといい」とおっしゃっていたのをどこかで見たので、なるほど、それをやってみようと。そうしたら、他の演者とのお芝居が楽しかったんですよ。そこで少しお芝居の楽しさを知った気がします。
-今回もドクターピタゴラスの設定を細かく考えて役を作っていくんですね。
年齢から出身地まで。特に戦後最高の数学者高木源一郎がなぜドクター・ピタゴラスになって闇の世界に落ちていったかを感じてもらえるように、演じることに命を懸けたいと思っています。
-命を懸けて全力で挑むということには、大きなエネルギーも必要なことだと思いますが、そのエネルギー源は?
言葉です。例えば、嫌だな、つまらないなと思っても、そんな言葉は吐かずに、「今、絶好調だ、最高だ」って強気になること。これが1番の原動力です。
-6月に行われた本作の製作発表で、「還暦を過ぎて、仏に向かって進んでいる」と話していましたが、還暦はユカイさんにとって大きな節目になりましたか。
そうですね。よく考えると59も60も1歳しか違わないんだけどね(笑)。でも、自分にとっては「還暦」というのが大きかった。ここから先、自分はどれくらい生きられるのかを真剣に考えました。子どもはまだ小学生だし、古希まであと10年しかない。今しかないんだなと、実感するんですよ。これまで、散々悪いこともやってきて、女性にも、たくさんの人たちにも、色々と迷惑をかけてきちゃったんで、これからはみんなが喜んでくれることをやろうと思ったんです。みんなをハッピーにしたい。自分だけが幸せならいいと思ってずっと生きてきたけど、みんなが幸せならもっと大きな幸せになることが分かったんです。人は何のために生きるのか? それは魂の成長のために生きるんだと。それが仏に近づいているのかなと。
-そこにロックは絡んでくるんですか。
自分にできることって何をやってもロックになってしまうんですよ(笑)。ロックをやることによってみんなが喜んでくれるというのは、この30何年間やってきて感じているので、これが使命だと思ってます。一所懸命生きることが一生懸命になっていくんだと。サッカーの本田圭佑さんがSNSで「みんないつかは死ぬんだし、命を懸けろよ」というようなことをつぶやいていたんですよ。その時は、何だそれと思っていたけど、やっと意味が分かった。命を懸けたら負けないんです、絶対に。もちろん、勝ち負けだけで生きているわけではない。何でも命を懸けてやっていけば怖いものはない。楽しさも倍増するものだと信じています。
(取材・文・写真/嶋田真己)
ミュージカル「浜村渚の計算ノート」は、8月26日~27日に福岡・キャナルシティ劇場ほか、大阪、名古屋、東京で上演。