ー監督の談話を読んだら、「この映画は、父の愛を渇望する息子と、息子を理解しようともがく父親の物語」だと語っていましたが、駄目おやじを演じることは、どんな感じだったのでしょうか。
役者としては、役を演じるに当たって、何か切り口になるものを見つけなければなりません。そこから出発して、演技全体の中で、どういうふうにバランスを取るかを考えるのですが、今回は、脚本を読んだ時に、この役のポイントはどこにあるのかということを一生懸命考えました。それで、これは頑固な駄目おやじの話だというポイントは見つかったのですが、では、演じる時にはどうしたらいいのか、単にこいつは駄目おやじだというふうに演じればいいのかと悩みました。そんなふうに演じると、多分観客の皆さんは、見ていて飽きてしまうのではないかと思いました。なので、どうしたらいいのかと考えたら、嫌なやつだけど、どこかかわいいところもある、そのバランスを取りながら演じることが、とても大事だと気付きました。実は、今まで役者をやってきて、今回のように自分が大嫌いなキャラクターを演じるのが結構好きなんです。
ーウォンさんは、これまでいろんな役を演じてきました。今回の役は、嫌いなキャラクターだけど演じるのは好きだとおっしゃいましたが、この映画は、ウォンさんのキャリアの中でどんなものになったのでしょうか。
この映画のおかげで賞を頂きました(笑)。でも、その喜びは1週間も続かなかったです。それで終わりです。
ー日本の観客に向けて、映画の見どころなども含めて、一言お願いします。
私は、映画のどこがお薦めなのか、見どころはどこなのかを説明するのがとても下手なので一言では言えません。自画自賛になってしまうとまずいかなとも思います。それに「ここは素晴らしいですよ」と言っても、観客の皆さんがいいと感じるところとは違うかもしれない。何かだましてしまうみたいな感じがするんです。昨日も、インタビューの中で、似たような質問があったのですが、私としては、やはり映画を見るときは全体を見ないと…と思います。例えば、私たちが文章を読むときも、最初から最後まで読まずに、ここだけ読めばいいということにはならないですよね。だから、映画の見どころを聞かれて、どう答えたらいいのかと思いました。
それに、日本のインタビュアーの皆さんは、「この映画好きですよ」「すごく良かった」「とてもリアルで演じているようには見えない」などと褒めてくださいますが、香港のインタビュアーの皆さんとは全く違います。香港では「この映画はまあまあだね」とか「その程度だね」という感じです。だから、この映画を見た日本の人たちは、本当にいいと思ったのかなと不思議な感じがします。私も映画はたくさん見ますが、私の鑑賞の基準とか、趣味とか、これを持ってお薦めするというのは、なかなか言えません。だから、日本の皆さんが、これを見て本当に良かったということであれば、ぜひ周りの人にも見ることを薦めていただきたいと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)