-子どもたちが、プレイヤーの「ベイビー・カム・バック」で踊るシーンが印象的でしたが、あの踊りはアドリブでしたか。
最後の方で、ちょっとユーモラスなダンスシーンを入れるのもいいと思いました。子どもたちのダンス自体はアドリブです。一応、振り付けは考えたのですが、時間的に間に合いませんでした。あの場面は、ワイドの2種類と寄りを1つ、それからスローモーションの寄りを1つ撮りました。なので編集が大変でした。あの曲は、編集をしていた時にSpotifyでかかっていたのをたまたま聴いて合うと思って選んだのですが、結果的にあの曲がこのシーンをまとめてくれたのでよかったです。
-この映画では、パイが重要な役割を果たしますが、アメリカの子どもにたちにとってパイは日常的なものなのでしょうか。
一言でいえば「クラシック(古典的)でコンフォート(快適)なもの」。食べて落ち着くようなものです。でも今はそれほど人気はないです。今のイメージだとタイムレス。昔ながらの、地方でよく食べられるものみたいな感じです。あとは、この映画では、童話によく出てくるアイテムの1つみたいなテイストも入っています。
-子どもたちが最初に盗むゲームの名前が日本名だったり、いろんなところで日本のカルチャーの影響が見られましたが、日本をすごく意識しているのですか。
もちろん意識しています。日本の文化や映画、アニメ、漫画も大好きです。この映画でオマージュをささげたいという気持ちもありました。特に日本のアニメは、ユーモアとシリアスのバランスがとてもいいと思います。そういう特殊なトーンをこの映画でも追求したいと思いました。
-日本の映画やアニメなどで特に好きなものは?
宮崎駿監督が関わった初期の「未来少年コナン」にはすごく思い入れがあります。あとは今敏監督の作品や「スピード・レーサー(「マッハGoGoGo」)」も。実写映画では黒澤明監督の作品や60年代のジャパンニューウェーブなど、好きなものはたくさんあります。黒澤監督の『隠し砦の三悪人』(58)については、この映画でちょっとリサイクルしています。特にあの映画の森の何でもありな感じや何が起きてもおかしくないような雰囲気は、この映画の森にも反映させました。
-この映画は16ミリフィルムで撮っていてそれがいい味になっていますが、それは予算の関係もあったのですか。
完全に芸術的な選択です。もともと16ミリが大好きなんです。16ミリで撮ることで特別な魂が宿るんじゃないかと思いました。
-最後に読者に向けて、見どころも含めてアピールを。
自分の子ども時代を思い出すような感覚をぜひ味わっていただきたいです。子ども時代にこういうアドベンチャーを経験していない方もいらっしゃるかと思いますが、そういう方も、実際に経験した方も、どちらも安全にこの世界に身を浸すことができると思います。本当に童心に帰って、子どもに戻ってこの映画を見ていただきたいと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)