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【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

駐大阪韓国文化院主催の創作公演「職人の時間」の会場で話す舞台演出家イ・インボさん

▽長い時を刻む、大衆文化とは異なる魅力

-Kカルチャーが世界で注目される今、今回のような舞台表現はKカルチャーの中にどう位置づけられると思いますか?

K-POPや映画などの大衆文化も素晴らしいですが、伝統芸術はそれよりもはるか以前から続いている文化です。私たちは、その伝統をただ守るだけでなく、現代的にどう再解釈するか、若い世代がどう自分たちの色に染め直すかを扱っています。なので、より長い時間を扱っていることに大きな意味があるのかなと思います。

-今後、Kカルチャーはどうあるべき?

とても難しい質問ですが、韓国には本当に多様なジャンルの芸術家がいます。それぞれが考えを持ち、悩み抜きながら活動していて。それらが、それぞれの場所で自分の表現を続けること、そしてその多様性に注目が集まることが、もっとも自然で確実な発展だと思います。全員が大衆芸能に偏る、あるいは(そうなることはないでしょうが)伝統芸能に偏るのではなく、それぞれが自分の持ち味を発揮していくことで、韓国文化の豊かさが伝わっていくのだと思います。

-今回の舞台でも伝統と現代が融合していました。こういったことを意識的に行っているのですね。

はい。私自身、伝統音楽を専攻してきたのですが、正直「伝統だけ」だと難しく、とっつきにくい部分もあると思います。だから、演じる側も、見る側も楽しめるようにしたい。伝統と現代、舞踊と音楽、アートと職人、そうした「出会い」をテーマに作品をつくっています。

職人が舞台上で仕上げた扇子と螺鈿作品

▽にじみ出る感情や味わいが韓国らしさ

-今後、日韓文化のコラボ舞台が生まれる可能性は?

とてもあると思います。美術は大きなプロジェクトになるので個人では難しいですが、国の支援があれば実現可能だと思います。音楽に関してはもっと簡単に、日韓の若い伝統音楽家が出会い、考えを共有し、新しいものを作り出していくという流れがつくれるはずです。実際に、今年の年末には日中韓の伝統音楽家が集まる公演を企画しています。美術についても、日韓の職人と演奏者がコラボできたらいいですね。とても大変だとは思いますが、きっと楽しいものになると思います。

-日本文化と比べて、韓国文化の特徴は?

難しい質問ですね(笑)。日本の伝統を深く学んだわけではないですが、自分は韓国の伝統音楽をベースにしているので、個人的な印象としてお話しします。韓国の音楽は、形式がきっちり整っておらず、「恨(ハン)」や「興(フン)」といった感情や味わいがにじみ出るような部分がある気がします。日本の伝統音楽は形式が整っていて無駄がなく、洗練された印象を受けることが多いです。

-最後に、メッセージをお願いします。

私たちの公演をご覧になった方はお分かりだと思いますが、私たちは一つの型にこだわらず、さまざまな形、さまざまな味を見せていきたいと考えています。伝統だけでもなく、現代だけでもなく、音楽・舞踊・美術などが交わることで新しい表現が生まれます。ぜひ、もっと多様な文化を一緒に楽しんでいただけたらうれしいです。

フィナーレで、二人の職人と並んで立つイ・インボさん(前列左から2番目)

プロフィール
84年生まれ。舞台演出家。リキッドサウンド代表。ソウル大学音楽学部国楽科卒。テグム(管楽器)専攻。フランスパリ第8大学演劇科学士・修士卒。2015年にリキッドサウンドを設立。同年、「舞踊劇 見えない境界」で演出家デビュー。代表作は「ギン:演戯解体プロジェクトⅠ」。2025年4月、韓国全州市にある国立無形遺産院で「職人の時間」を初演。