ビジネス

メーカー機能をさらに強化へ ——東京エレクトロンデバイスの徳重敦之社長に聞く

今後の事業展望を語った東京エレクトロンデバイスの徳重敦之社長・CEO

 “メーカー機能”を持つ半導体・ITシステムの技術商社として独自の発展を続ける東京エレクトロンデバイス(東京都渋谷区)。収益性向上のためさらなるメーカー機能強化を打ち出す徳重敦之社長・CEO(61)は「技術の進化が早く、常に3~5年先を見据えた製品・サービスを考えて事業展開している。今後5年間は総力戦でいく」と話す。

 4月に始まった5カ年の「中期経営計画」では2030年3月期の達成目標として売上高3000億~3500億円、経常利益率8%を掲げる。今後のメーカー機能強化に向けた取り組みや近年力を入れている有望技術を持つ企業の合併・買収(M&A)戦略、人工知能(AI)関連事業の展望などを徳重社長に聞いた。

——メーカー化への手応えは。

 徳重 第1ステップは踏めたが、まだ胸を張ってメーカーと言えるところまでには至っていない。道半ばだ。持続的に収益性を上げていくためには商社機能とともにメーカー機能も高めていかなければならない。

——2017年以降、半導体・電子デバイスメーカーと画像処理技術メーカーの2社を傘下に収め、1社のウエハー(半導体などの基板素材)検査装置事業を譲り受けた。今後のM&A戦略は。

 徳重 これまでのM&Aでメーカー機能の礎を構築してきた。今後も、当社が持っていない技術・機能を持つ企業に焦点を合わせてM&Aを積極的に行っていきたい。

——計測・検査事業の成長可能性は。

 徳重 産業機器や半導体製造装置、ロボットなどの検査分野で当社ビジネスの拡大を目指している。ここに挙げた産業機器などはさまざまな技術のすり合わせが必要な精緻な機器。この産業機器は日本メーカーが強い分野だ。計測、検査は人間の目で行うので、コストがかかる。この計測、検査の作業を機械化できれば顧客メーカーにメリットがあり、当社の収益性も上がる。

—— AI関連事業の今後の展開は。

 徳重 AIに関してはいろいろな関わり方があると思う。当社で可能なAIとの関わり方については、担当の宮本隆義・執行役員副社長(コーポレートオフィサー、コンピューターネットワークビジネスユニットゼネラルマネージャー。インタビュー当時は執行役員専務)が説明する。

AI事業の展開を話した宮本隆義・執行役員副社長(右)

 宮本 当社は画像処理装置に、AIによる画像分類機能を搭載することが可能なソフトウェア製品がある。高性能画像処理とAIで欠陥を検出する。また、生成AIの大規模言語モデル(LLM)を構築できる超高速ディープラーニングシステムを現在販売している。ただ当社は販売するだけでなく、誰もが自由に無料で利用できるオープンソースのLLMをベースに当社独自のLLMを自社で開発した。自社でLLMを開発できるエンジニアを、この4~5年で育成してきた。今後も自社独自のLLM開発を強化していく。

——具体的には。

 宮本 例えば法務や営業、マーケティングなど個別の分野・カテゴリーごとに必要となる「業種特化型LLM」の開発に当社は貢献できると思う。その次の段階は、学習データを基に推測して答えを出す生成AIの「推論」。この推論の段階も当社がAI関連ビジネスの分野として着目すべき成長市場になってくるはずだ。

——研究開発費の今後は。

 徳重 当社の体力に見合った研究開発費はこれまで投下してきた。今後も年間5億円ぐらいを一つのめどに増やしていきたい。ただ研究開発対象の案件にもよるので、成長可能性が期待できる良い案件であれば、もっと出すこともあり得る。

——今後の海外での事業展開は。

 徳重  当社の事業はいまのところ、日本メーカーにフォーカスしているが、プライベートブランド事業では海外に目を向けて、お客さまのすそ野を広げていく必要がある。現在の海外拠点は最先端企業が集まる米シリコンバレーのほか、車載システム関連の米デトロイト、メキシコ国境リオグランデ沿いの米テキサス・マクアレン、中国は大連、上海、深圳、香港、東南アジアはタイ、シンガポールに置いている。欧州には拠点を置いていないが、今後、プライベートブランド製品の拡販のため、欧州の企業と深く付き合うようになってくれば拠点が必要になるかもしれない。

東京都渋谷区の新本社でさらなる社業の飛躍を誓う東京エレクトロンデバイスの徳重敦之社長・CEO

 ■インタビューを終えて■

 メーカー機能の強化に関して、徳重敦之代表取締役社長・CEOは「メーカー化はあくまで手段であり、収益性を上げることが一番の目的だ。それが株価や株主配当、社員の報酬などいろいろな意味でプラスにつながる。それとともにメーカー化を追求することで社員が物心両面で自信と誇りをさらに持つことができる会社にしたいという狙いもあった」と話す。

 その狙いである“メーカー化意識”は、「当社はただ販売するだけではない」という宮本隆義・執行役員副社長の発言に見られるように、社内にしっかり浸透・定着しているようだ。独自LLMを自社で開発したAI関連事業のエンジニア育成は5年前から既に着手。技術系の社員はグループ全体のおよそ3割に及ぶ。

 2024年10月には本社を横浜市から東京都渋谷区に移転。半導体製造装置メーカー東京エレクトロン(東京都港区)の子会社でなくなった“親離れ”の2014年に続く、さらなる飛躍に向けた大きな節目を迎えている。