まめ学

クライアント/サーバーとは? 【岡嶋教授のデジタル指南】

 私たちが日常的に利用しているインターネットの多くのサービス―SNSや動画配信、検索エンジン、ネットショップなど―の背後にはクライアント/サーバーと呼ばれるシステムが存在しています。現代のネットワーク資源の基本的な配置方法の一つと呼んでいいでしょう。この構造は、あまり表に出ることはありません。「仕組みを知らなくても使える」「利用者に構造を意識させない」が一般利用者向けシステムを提供するときの原則だからです。

 クライアント/サーバーという名前の通り、このシステムにはクライアントとサーバーという二つの役割が登場します。クライアントはサービスをお願いする方、サーバーはサービスに応じる方です。

 例えば、ウェブであればクライアントは利用者の操作によってウェブページを要求する端末やソフトウエアです。サーバーは、その要求に応じてウェブページを提供する側のコンピューターやソフトウエアです。

 サーバーは多くの場合、インターネット上の特定の場所に設置された高性能なコンピューターです。ウェブページのデータ、動画ファイル、利用者情報などを保持・管理して、要求に応じてクライアントに送るためには高い性能が求められるからです。

 しかし、「クライアント」「サーバー」はあくまで役割ですので、固定的なものではありません。例えば手元のノートパソコンだってサーバーとして振る舞うことはできますし、大型コンピューターが他のコンピューターに何かを要求するクライアントになることもあります。

 メーカーのウェブサイトなどを見ると「サーバー」として高性能コンピューターを売っていますが、あれは「サーバーとしての役割を全うするためには性能が良い方がいいですね」という話であって、別に性能が低いコンピューターがサーバーになれないわけではありません。

 この仕組みの大きな利点は、役割分担が明確になることです。データの管理・処理をサーバー側が担うことで、クライアント側の処理負担は軽減され、機器の軽量化などに寄与します。また、サーバー側が演算や記憶を一元的に管理することで、セキュリティー対策やデータの一貫性保持、機能の更新も効率的になる利点があります。

 もちろん、利点しかない技術は存在しません。クライアント/サーバーにも、いくつも弱点があります。最も私たちに関係するのは、サーバーへの依存性です。サーバーが停止すれば、クライアントはリクエストを出す相手を失い、サービス全体が機能不全に陥ります。ここが止まると全体がダメになるぞ!というヤバいスポットは単一障害点(SPOF)と呼ばれ怖れられますが、サーバーはSPOFになりやすいと言えます。

 歴史的な経緯を述べれば、サーバーはまず分散処理形態と言われました。大型コンピューターに全てが集中していた時代と比べると台数も多く、いろいろな所でいろいろなサーバーが仕事をしているからです。でも、今ではP2P(ピアツーピアの略で、ネットワーク上のコンピューター同士がサーバーを介さずに直接通信やデータ交換を行う方式。各端末が対等な立場で動作し、ファイル共有や仮想通貨などに広く使われている)やブロックチェーンなどの分散度がさらに高いシステムが普及したので、むしろ相対的に「クライアントサーバーが集中型」に分類されることが増えました。書籍や記事でこの言葉に出合ったときには、どの視点から語られているのかを意識しましょう。

 クライアント/サーバーモデルは長く使われてきた一方で、近年はそのあり方に変化も生じています。たとえば、クラウドコンピューティングが現れて、サーバーの存在はより抽象化されました。「どこにあるのかわからないけれど、どっかで動いている」という形になり、より柔軟な運用が可能となった反面、見えにくくわかりにくい存在になったことも否めません。

 一方で、クラウドサービスの内部は依然としてクライアント/サーバー方式に基づいて設計されています。クライアントサーバーは消えていくレガシーではなく、「見えにくくなったけれども現役の基本構造」と言えます。

 今後、AI(人工知能)やIoT(多様な機器を通信でつなぐモノのインターネット)といった新技術が浸透しても、「処理を要求し、それに応答する」という基本原理は変わらないことが予想されます。華やかなアプリの背後にあるこの仕組みを少し意識するだけで、情報社会が違う輪郭で目に映るかもしれません。

【著者略歴】

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/中央大学政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)、「機動戦士ガンダム ジオン軍事技術の系譜シリーズ」(KADOKAWA)。Eテレ スマホ講座講師など。