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「書評」 『日本人は日本のコメを食べ続けられるか』 供給不足を予言した三菱総研 共同通信アグリラボ

 「令和のコメ騒動」で、農水省は8月まで一貫して「コメはある」と主張し続け、その理由としてコメの国内消費が毎年8~10万トン減少する傾向を挙げ、生産調整(減反)を正当化してきた。学者ら専門家が加わる審議会も農水省の説明を鵜呑みにした。

 これに疑問を投げかけたのが、三菱総合研究所だ。コメ不足が表面化する前の23年7月に公表した「食料安全保障の長期ビジョン」の中で、コメの消費は減るが、それ以上に供給が減ると予測し、「(2040年時点で)普段食べているコメの自給すらままならなくなる」と警告した。これは50年に向けた長期予測であり、「令和のコメ騒動」を予言したわけではなかったが、供給不足の恐れを指摘した点で同総研の懸念は正しかった。

 本書は、このレポートを書き上げた同総研の稲垣公雄理事と「食と農のミライ」研究チームが、米価高騰の背景と原因、今後の見通しを示し、課題を挙げて政策を提言する。高騰の直接の原因は「需給バランスの崩れだ」と指摘、「減反政策は諸悪の根源」という見解について「冷静さを欠き、明らかに言いすぎだ」と批判する。

 本書には「逆にいえば」、「見方を変えれば」という表現が再三出てくる。農業政策は、関係者の利害関係が入り組んでおり、統計資料や政策の一面だけを捉えて妥当性を判断するべきではないからだ。例えば、米価の高騰はもっぱら物価高の問題として報道されているが、国際的な農業保護水準の視点からみた場合、海外より高い価格でコメを買うことによる国民負担(価格支持)が約7000億円だったのが1兆7500円に急増したと試算している。

 今後の課題は、保護水準を切り下げながら、国内生産を維持することだ。米価の引き下げが前提となるためハードルは高い。本書は、現状の作付面積195万ヘクタールの水田を維持することが「食料安全保障の土台である」と提言する。

 同総研が、農水省と異なる見解をいち早く示すことができた理由の一つとして、食料・農業・農村審議会に委員を送り込んでいないことが考えられる。著者はあとがきで、農商務省の官僚で民俗学者の柳田国男の言葉を引いて「誠実に、国のために経済の未来を考える者であり続けたい」と記した。この「在野精神」を忘れないでほしい。本書は河出書房新社から出版された。定価950円(税別)。

(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)