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発展する自由貿易港都市・海南省 中国の新たな「改革開放」にビジネスチャンス

中国の海南島
 

 中国の人気リゾートアイランド「海南島」。“東洋のハワイ”と言われるこのリゾート地には、コロナ禍にもかかわらず2021年は約8100万人の観光客が訪れた。国内外から観光に訪れる海南島を中心とする中国最南端の「海南省」は、観光都市としてだけでなく世界中の企業が進出する国際貿易都市でもある。

 ゼロ関税など税制優遇がある自由貿易港を持つ海南省には、日本をはじめ世界の企業から熱い視線が注がれる一方、北京や上海、広州などと比べ、まだ知名度は低いのが実情だ。こうしたことから海南省について知ってもらおうと、海南省人民政府や政府機関・海南国際経済発展局の関係者がこのほど来日し、東京都内で日本企業向けに海南自由貿易政策についての説明会を開いた。

説明会には多数の日本企業が参加

 ▽法律で政策を裏付け

 中国は、2018年に海南島全域で自由貿易政策を進めることとし、20年6月に「海南自由貿易港建設の全体案」が正式に発表され、施設建設や政策整備などを進めてきた。21年6月に「中華人民共和国海南自由貿易港法」が発効され、長期的、安定的、持続的な法律保障の下で海南自由貿易港政策が進められていることを対外的にアピールしている。関係者の日本訪問は昨年末に次いで2回目で、半年後に続けての再訪は、中国の「海南自由貿易港政策」における、日本への期待をうかがわせる。

海南省常務委員会秘書長 巴特尓氏

 

 訪日団を代表して海南省常務委員会委員・同委員会秘書長の巴特尓(バテル)氏が自由貿易政策の利点について説明した。巴氏は「中国に自由貿易特区はいくつもあるが、自由貿易港は海南省だけだ」と強調。海南省の特徴として「温度が高く、熱帯関係の産業に適していることに加え、周辺の海域は深海なので海を活用した実験ができる」と地理的な特性を指摘した。

 ▽貿易の“交差点”

 海南国際経済発展局の宮起君(ゴン・チージュン)副局長は周辺地域との連携による優位性を挙げた。海南省は東南アジアに近く、中国本土と東南アジアの二つの巨大市場をつなぐ“交差点”であることを指摘した上で「4時間あればアジア21カ国に行くことができる」と説明。「この地域の人口は世界の47%、GDP(国内総生産)規模も30%ある」と話した。

 中国の駐日本大使館経済商務公使・宋耀明(ソン・ヤウミィン)氏は「今年は中日友好(日中平和友好条約締結)45周年。日本は中国の経済発展に貢献してきた。(海南省の)自由貿易港の建設は、中国の新しい発展に重要な意味を持つ」と日本への期待を込めて話した。

 ▽「消費財博覧会」開催

中国国際消費財博覧会の模様(提供:同博覧会)

 訪日団が日本企業に強くアピールしたのが今年4月に海南省の州都・海口市で開催した「中国国際消費財博覧会」だ。3年連続の開催で、自動車から宝飾品、酒類、健康食品などありとあらゆる「消費財」が展示され、一般客のほかバイヤーも多数訪れるイベントとして知られる。

 海南国際経済発展局によると、今年は12万平方メートルの会場に65の国と地域から出展があり、延べ約32万人が入場したという。この日の説明会に出席した日本貿易振興機構(ジェトロ)企画部の日向裕弥・海外地域戦略主幹は「ジェトロも2021年の第1回から支援し、ジャパンパビリオンを設置。今年は38社が出展し、日本の商品をアピールした」と説明した。

日本企業38社が出展(提供:中国国際消費財博覧会)

 2024年の開催も決まっており、今では北京、上海、広州で開く貿易関係の博覧会とともに「中国四大博覧会」と言われているという。

 ▽日本企業も100社超進出

 海南省人民政府が強調する企業進出の具体的メリットは、数々の貿易優遇策だ。離島免税政策によって、免税品目が45種類に拡大され、第1段階の実施目標としている2025年には、ほとんどの商品が関税ゼロになるという。法人税・個人所得税の税率は15%で、国際貿易都市とされる香港やシンガポールより低いとしている。

 日本からは既にトヨタ自動車、パナソニック、三菱商事、ローソンといった100社を超える企業が進出。海南省は今後「観光業」「現代サービス業」「ハイテク産業」「熱帯農業」を重点産業と位置付け、企業誘致を進めている。

▽手厚いサポート

 海南省は、さらに日本企業を誘致するため2022年7月に現地法人設立のサポートや政策について問い合わせることができる「日本企業サービスセンター」を設置。さらに海口市に現地事務所などが入居する「日本企業ビル」を建設した。

日本企業サービスセンター設立(提供:海南国際経済発展局)

 2019年に海南省に進出した貿易会社の関係者は「スタッフの中に日本語ができる人が多く、継続的なサポートが受けられることも魅力」とメリットを強調した。

 説明会に参加した物流会社・日新(東京)の横山利幸 営業開発室長は「海南省は通関が早いなど貿易に関するシステムが整っているようだ。海南省を軸に中国本土から東南アジアへの物流が増えれば(物流会社として)進出の意義がある」と指摘。グリーグループでSNS関連事業におけるマーケティング支援を手がけるグリーライフスタイル(東京)の江川嗣政社長は「海南島は中国各地の富裕層が訪問する点が大きい。日本との直行便ができれば日本企業進出の可能性が高まる。進出企業へのマーケティング支援も展開できそうだ」と期待を寄せた。

 海南省常務委員会委員の巴特尓氏は「中国の観光客に日本の消費財を選んでもらいたい。(進出を考えている日本企業は)ぜひ直接訪れて海南省を肌で感じてほしい」と呼びかけた。