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「こころを動かす創造的な空間づくりを」 さまざまな顧客のイメージを具現化 丹青社、小林統社長インタビュー

丹青社・小林統社長

 丹青社(たんせいしゃ、東証プライム9743)という企業をご存知だろうか。戦後間もない1946年、東京・上野で百貨店の店内装飾を手がけたことからスタートし、1970年の大阪万博のパビリオンづくりに、そして、来年の「大阪・関西万博」にもかかわっている。

 会社名をあまり知らなくても、実は丹青社が取り組んできた数々の仕事は、大型商業施設、テーマパーク、公共施設、博物館、空港ターミナルビル、企業ミュージアム…など、この世界に確実に足跡を残している。「空間から未来を描き、人と社会に丹青(いろどり)を。」をパーパスに掲げる、同社の小林統社長に自社の取り組みとともに、今後、目指すべき方向性をインタビューした。

▼銀座・和光本店のリニューアル

-丹青社が取り組む「空間づくり」をもっと具体的に説明していただけますか。

 私たちが創造する空間づくりとは、人と人が行き交う社会交流の場の空間づくりということです。『総合ディスプレイ業』として、あらゆる分野の施設を対象として事業展開を行っています。この世界では多くの人が、そんなに意識することなく、駅のターミナル、空港、商業施設、複合型ビル、文化施設などの空間に、触れながら生活をしています。それぞれの施設に応じて、求められる空間づくりはさまざまです。

 お客さまのご要望を聞きながら、営業、プランナー、デザイナー、制作といった、私たちのプロフェッショナル集団が企画から、デザイン、制作、施工、デジタル技術を生かした空間演出、運営まで、プロジェクトに合わせたチーム編成で一貫してサポートできる態勢を整えています。年間6000件を越えるプロジェクトを引き受け、空間づくりでお客さまの課題を解決しています。皆さまがご存じの施設で例をあげるのであれば、東京・銀座を象徴する時計塔がある、時計・宝飾品などを扱う「和光本店」のリニューアルをお手伝いさせていただきました。

和光本店写真(提供:丹青社)

 親会社がセイコーグループの和光さんは2022年、建物名称である和光本館(現:和光本店)から『SEIKO HOUSE GINZA(現:SEIKO HOUSE)』に改称され、ウォッチスクエアや、ジュエリースクエアなど、フロアごとにテーマがあり、その世界観をどのように表現をしていくのか、当社のデザイン・設計などの担当者が知恵を絞りました。お客さまからのテーマ設定は『世界中の人々が行き交う場である銀座に、セイコーブランドをダイレクトに発信する拠点をつくること』でした。

-クライアントからの課題にどう対応したのですか。

 和光本店では入店しやすさの向上や新たな顧客層へのアプローチにつなげることを課題とされていました。1・2Fのリニューアルのお手伝いにあたり、特殊な技術ではぎ合わせた突板やプロポーションの異なるタイルを貼り合わせ多様な陰影を映し出す柱を作るなど、一つ一つ丁寧に手間をかけて作られたことが感じられる空間を表現することで、和光の歴史を知り、ホスピタリティを感じながら購買体験をしていただける工夫をしています。

 また、中央ウィンドウをシースルーにしてオープンな雰囲気にし、銀座4丁目の交差点と店内をつなげることで、入りやすさを向上しつつ、和光本店がこの地で刻み続けた歴史から生まれる品格や格式が伝わる空間になりました。私たちの担当チームとお客さまとで、何度も何度も打ち合わせをさせていただきました。その結果、生まれた空間と言えます。その後も、関連した施設をお手伝いさせていただいており、お客さまの想いをしっかりと理解し空間づくりで課題解決を行った結果、お付き合いを続けていただけている好事例だと思います。

ワンフロアの本社の風景(提供:丹青社)

▼存在意義を問い直す

-2020年ごろからの新型コロナウイルス感染症は、人と人との交流や、外出が制限されたり、自粛をしたり、と人が世間の空間に触れる機会が大幅に減りました。

 私たちのメインの仕事は、人と人が行き交う交流空間をつくることです。感染症拡大予防のために『外に出てはいけない』はすなわち『空間に出てはいけない』ということであり、事業の存在そのものが否定されたような気持ちになりました。と同時に、私たちの事業の根幹を揺るがすようなことが起きたと危機感を強く持ちました。
会社の業績を振り返ってみても、コロナ禍の影響をあまり受けていない2020年1月期決算は、最高益を出すぐらいの右肩上がり基調でした。一方、2021年1月期決算から3年間の業績は厳しく、売上規模も前年比2割強もダウンをするといった結果でした。

 ただ、そのような状況の中でも、当然のことながら事業をやめるわけにいきません。『空間づくり』を手がける当社の存在意義をあらためて問い直しました。デジタル技術を活用することなどで、いかに提案の幅を広げられるかを社員と一緒に模索する日々が続きました。

-コロナ禍ではどんな取り組みを?

 その質問のお答えは、後でお話します。私たちがいる、東京・品川の本社オフィスは2015年9月に上野から移転をしました。上野では約37年間、会社の成長とともに自社ビルと周辺にオフィスが分散し、フロアも分かれ、社員同士のコミュニケーションを図るのにも時間がかかるなど、課題がありました。

 私たちの仕事は、営業、プランナー、デザイナー、制作など各担当者が熱量の高いコミュケーケーションを通じて、お客さまのご要望を具体化しており、ワンフロアの働く場がないかと探しました。しかも、部門横断的に取り組まなければいけない大型な案件やさまざまなノウハウが必要な複雑なプロジェクトも増えてきて、もっとスムーズにコミュニケーションを図れるようにしたい、とこの品川に移転してきました。

 このワンフロアで、約1500坪の床面積があり、本社勤務の全社員(本社勤務人数約900人)が一堂に集える場所になりました。新オフィスに移転するにあたって、決まった席を持たずに好きな席で働くワークスタイルであるフリーアドレス化に踏み切りました。フリーアドレスによって、社員のみなさんが自由に行き来して、上野時代に感じていた課題であった、スムーズなコミュケーションが図れるようになりました。

 先ほどの質問に関連しますが、コロナ禍前にワンフロアのフリーアドレスを導入していたことは、準備していたわけではありませんが、結果としてコロナ禍への対応ができていたのではないかと考えます。もちろん、コロナ禍では、テレワーク、サテライトオフィスなどの活用で、柔軟な働き方を進めました。

 コロナ禍の模索では、デジタルの領域で私たちの空間づくりで、何ができるのかを議論しました。デジタル化への試行錯誤の連続でしたが、デジタル技術を活用した『空間づくり』は進めなくてはいけないと判断し、社内のDX強化などに取り組みました。例えば、大きな映像プロジェクションマッピングなどを使いながら、空間演出をするほか、デジタルツイン(※現実の世界から収集した、さまざまなデータをまるで双子であるかのように,コンピューター上で再現する技術=NTTコミュケーションズIT用語集より引用)もトライしました。

 デジタルの空間上でもリアルの空間づくりに取り組んでいたからこそ表現できる空間がありましたね。設計の側面ではBIM(Building Information Modeling)と言う仕組みを活用し、デジタル上で、空間を設計、設備のデザイン・空間演出をバーチャル上で検証し、不具合などを見つけだします。

 クラウド上で関係者みんながデータを共有でき、施工に進んでからのトラブル減少、作業効率化につながり、データの活用も将来的にはさまざまな用途で可能になる。そんなことができるわけです。私たちは、この領域も完璧にできているわけではないのですが、コロナ禍で苦しんでいる最中にこんなことも挑戦し、実践してきました。

▼「AIRエアーホッケー」の誕生

 コロナ禍はオフィスに人が出社しづらくなりました。来客も減少し、受付周辺の空間が活かせなくなってしまいました。先ほども言いましたが、私たちは、社員と社員とのコミュニケーションで創造的な仕事を生み出しています。ですから、コミュニケーションが取りやすい環境や、以前よりは出社が少なくなったオフィス空間をどういうふうに有効活用すればいいのか、なども検証しました。

 例えば、ゲームセンターなどにある、エアーホッケーからヒントを得て、空間演出部門にて自主実践プロジェクトを立ち上げ、若手の社員らが中心となって「AIRエアーホッケー」を作りました。通常のエアーホッケーは、空気が吹き出された卓上で、丸いプラスチック製の円盤状の皿が動き回るのですが、開発したものは、デジタル技術を応用しています。天井からマッピングをして、人の手が動くと、それに合わせてセンサーが反応し、卓上の映像の皿を打ち返せるようになっています。

 社内コミュニケーションの促進を目的とした部門対抗戦などを通して、少しでも気分が明るくなるような仕掛けを実践しました。こうした取り組みが、新技術や知見の蓄積、空間提案のヒントに繋がっていくこともあるのです

AIRエアーホッケー(提供:丹青社)

 私たちはこの約80年の間、空間づくりを一筋と言っていいぐらい、やってきました。ただ、私たちの業務の周辺にはいろいろと、手を伸ばせばできるような領域もあると考えています。試行錯誤しながらではありますけども、今いくつかの新規事業を立ち上げ、力を入れています。

 一つは、カタログ落ちなどにより販売中止となった建材、照明器具、装飾材などの、いわゆる廃番品専門のECサイト「フォーアース(4earth)」では、廃番品の有効活用を通して少しでも環境負荷の軽減を目指してメーカー様と協力しながら活動をしています。

 また、東京の都心部である中央区、千代田区など都心の築年数が古い中小規模ビルを購入し、建物の設備や仕上げをリニューアルすることで、ビルをよみがえらせる事業「R2(Real-estate Revitalization/不動産再活性化)」も展開しています。このプロジェクトは、ビル建設にかかわる二酸化炭素の排出を削減しながら、建物の付加価値を生み出す事業といえます。空間づくりに関連した、サステナブルな取り組みだと評価しています。

インタビューに応じる小林社長

▼人づくりプロジェクト

-就活生たちにメッセージを。

 世の中を見渡せば、どこかに旅行に行く時に使う空港や、駅、車の移動であればサービスエリア(SA)、テーマパークやアミューズメント施設など、いずれの領域の空間づくりで、私たちはかかわっています。もし興味のある学生さんであれば、空間づくりを一緒にやりませんかっていうふうに言いたいですね。

 私は文系出身ですが、文系の方だってまったく心配することはありません。ゼロからでも知識を深めながら楽しむことができ、楽しんで仕事ができる環境を作っています。具体的には、私たちは、人づくりプロジェクトという取り組みを新入社員向けに実践しています。基本的な業務を理解してもらう座学研修と並行して4月中旬から7月中旬までの約3か月間、新人でチーム編成をしてもらい、外部のデザイナーや協力会社にも支援をいただきながら、プロダクトを完成させるのです。

 私たちは、お客さまからニーズを聞いて、品質・コスト・納期などさまざまな角度から検討を重ね、その後、企画・デザインされたものが制作チームよって施工されていく、この一連の流れが、仕事の基本になります。大きなプロジェクトになればなるほど、そこに関係する担当者は多くなってきます。

 私たちの空間づくりは、人と人とが、豊かなコミュケーションを取りながら、その先に実現するものだ、と固く信じています。人づくりプロジェクトを通して、新入社員の方には、ものづくりの面白さを味わうとともに、ものをつくるときの予算、締め切りの厳しさや、関係者間のコミュケーションとチームワークの大切さを理解してほしいです。発表会も社内で開催され、プレゼン力も必要です。より良い空間づくりを創造するための高いコミュニケーション能力を体得してほしいですね。

【社長略歴】小林統(こばやし・おさむ)1959年、長野県出身。法政大学卒業後、1984年に丹青社に入社。エンターテイメント施設やイベントに関するプロジェクトマネジメントを担当など幅広い分野で経験を重ねる。2016年に取締役、2022年取締役専務を経て、2023年4月から現職。