ビジネス

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】生きてくれ! 教育委員より

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】生きてくれ! 教育委員より

2023年12月5日=1,704
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


JR九州・久大本線 (別名・ゆふ高原線)の駅 (大分県由布市)、近くに湯平温泉街あり
JR九州・久大本線 (別名・ゆふ高原線)の駅 (大分県由布市)、近くに湯平温泉街あり

2012年から地元で「教育委員」を続けている。

実は2018年、がん発病時。それまでのようには活動できないと考えたため、この職を辞することをお願いした。

すると教育長から、

「今までのようでなくてもええですから続けてください、町長も同意見です」

うれしかったぁ、そして何よりもありがたかった。こんな自分でも、以前より限られた活動しかできない己にも、できることがまだあるんや、と。

今まで生きてこられた、そして今も生きられる力を頂戴している。三重県木曽岬町・教育委員会、サンキュー!

▽独学

この立場を利用して教育現場に物申したきことは〝三つ〟。

まず、「独学」。

言わずと知れた、独自で学ぶことだ。しかし実際の現場では、教えたい・教えられたいがまん延している。好きこのんで教師を目指し、教員免許を取得した先生たちである。教えたい、育てたい思いに駆られるのは必至だ。

一方、学ぶ側も教えられることを好む。だって楽やから。自分で調べるとなると、労力もハンパない。授業を受け、さらに質問して教えてもらえれば、労せず簡単に済む。

かつて、、所嫌わず質問攻めしていた生徒がここにいる(私のことです)。つまり「おまえに言われたぁない」「どの口が言う」なんだけれど、言わせてください。教えられたモノ・コトはやっぱり定着し難い。記憶も一時的な記憶になりがち。これは体験者故に話せる事柄だ。あれやこれやと汗水流して独力で調べて始めて身に付くのである。労を惜しまず、労力かけることが大事なんや。

ただしそうは言うても、最小限・最低限の知識や技術あるいは初めての事などは教えてもらいたい。あいうえお、足し算・引き算などは。なので、

「先生、基本の“キ”だけ教えたら、後はなんも教えんでええよ」

その先は生徒自らが突き進んでいくだろう。自分が学びたいことを。

▽間違い探し

次に、授業中の間違い探し。これは常に正しいことを教えるばかりではなく、時にはウソを教えるのもいいんじゃないかという提案だ。

例えば授業開始時に「この授業で今からひとつだけウソ言うから見つけてくれ、最後に聞くで」。

左右の絵を見せられて、あるいは時間の前後で示された写真から、違ってるモノを探してくださいというクイズのノリである。間違い探しに血眼になる生徒も出てくるかも知れない、私のように。授業の場が真剣の場になる。ええ思うけどなぁ。

「自分の生徒には是非やってみたいです、でも授業中となると・・・」

ひとりの教師が返してくれた。そりゃあそやな、親から非難されそう。

▽生きて

偉そうなことばかり言うてきたけれど最後に。一番届けたいのはこれ。

「生きてくれ」

学校生活で心身の苦労は付き物。学業に部活、いわんや人間関係をや。ええことばかりやない。さらにこれらは卒業後、社会でも起こり得る。その結果自ら命を・・・なんて、なりかねない。

しかしあえて申し上げたい。がんになった者から。

現在がん治療中の私は、発病しなかった自分と比べれば、寿命は確実に短くなっている。抗がん剤継続による身体への負担、転移が治療中に出現。生命体としては明らかに弱らされている。でも生きたい、生きていきたい。生きられる間しぶとく。

ここでいま頼っている抗がん剤の話をする。これが世に出たのは何と2008年である。つまり15年より前に発病していたならば、オレはもう死んでいる。肝臓転移が増悪すると、人間なかなか生きられない。

生きておれば、ええこともやってくる。私はそう信じている。だから皆も、生きてほしい。どんな形でもええから。

湯平温泉街は映画「男はつらいよ」の舞台にもなった
湯平温泉街は映画「男はつらいよ」の舞台にもなった

ところでユーチューブらいぶ配信、ひっそり続けてます。チャンネル名「足し算命・大橋洋平の間」。配信日時が不定期なためご視聴しづらいとは察しますが、どこかでお気づきの際にはお付き合いくださいな。ご登録も大歓迎。

応援してもらえると、わたくし生きる力になります。引き続きごひいきのほど何とぞよろしくお願い申し上げまぁす。

(発信中、フェイスブックおよびYouTubeチャンネル「足し算命・大橋洋平の間」)


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)、2022年11月「緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがん闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。