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たかが入場料、されど入場料 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授  連載「よんななエコノミー」

 7月、沖縄県に大自然のテーマパーク「ジャングリア沖縄」がオープンした。注目を集めたのは、久しぶりの大型テーマパークの開園であることとともに、外国人と日本人の入園料を異なった価格とするいわゆる〝二重価格〟(dual pricing)を導入したことだ。

 近年、観光においても文化施設を中心に二重価格が検討され賛否が分かれているが、背景には観光資源である文化財などの維持・管理費の増加がある。インバウンド旅行者が増え多言語対応や運営の人件費、清掃費などがこれまで以上の負担となっているためだ。さらに、日本の観光施設の入場料が海外と比較して相対的に安価であるため、インバウンド旅行者には外国並みの入場料を設定してもよいという考え方が根底にある。

 世界遺産の兵庫県・姫路城でもこの検討が行われており、市民以外の入城料を現在の千円から2500円に引き上げる方針だ。

 一方で二重価格には批判的意見も多く、外国人差別につながる、価格競争力が低下し不人気につながる、運営が難しいなどとも言われる。

 海外においてはフランスのベルサイユ宮殿やインドのタージマハルなど二重価格の導入に成功している例もあり、ベルサイユ宮殿の場合、1日パスポートの価格が一般客が32ユーロ(時期により異なる)であるのに対し26歳未満のEU圏在住者は無料としている。外国人を高くするのではなく、あくまで一般価格があり、在住などの条件により安くする考え方だ。ジャングリア沖縄の例でも「一般料金」とそれより安い「国内在住者料金」とを設定しており、割り引く考え方の方が受け入れられやすい。

 価格の設定理由を十分に説明することも重要で、ベルサイユ宮殿の例では建造物の維持管理、運営にかかる費用の高騰、観光客受け入れのインフラ整備の必要性などを説明するほか、EU圏在住の若者が文化に触れることができるよう無料とすることなど、価格設定の理由を公式サイトやプレスリリースで発信している。

 オーバーツーリズムも、観光収入が十分に還元されず住民にメリットが少ないことが問題を大きくする原因の一つだ。たかが入場料かもしれないが、目に見える形で地域に還元することは観光事業と地域住民とを近づける第一歩にもなる。収入を文化財保全や受け入れ整備に利用するという位置づけを明確にすることで、住民にも旅行者にも納得のいく制度となるだろう。

 二つの価格をつくるには理由の明確化と的確な発信がその成功の鍵にもなる。

 【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.38からの転載】