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動画の功罪 鬼頭弥生 農学博士 連載「口福の源」

 皆さんは、食事づくりのための情報を、どのようにして得ているだろうか。

 家庭で経験的に得ることもあるだろうが、料理レシピを見て、日々の食事づくりに役立てている方も多いだろう。

 料理レシピの媒体は、従来はもっぱらマスメディアが担っていた。マスメディアといっても、料理の本から、新聞や雑誌に掲載されるレシピ、テレビの料理番組まで幅広い。

 料理に慣れていない場合や、慣れないジャンルの料理に初挑戦するような場合には、文字情報だけではなく、写真の情報、さらには動画情報があると、大変助かる。調理工程のちょっとした動作、切り方や混ぜ方、鍋の振り方、焼き加減、調理器具の選び方や配置の仕方、使い方がよくわかる。

 一般の人も投稿できるレシピ投稿サイトが普及して久しい。近年は、インスタグラムやユーチューブなど、動画投稿型のソーシャルメディア上にも多くの料理レシピ動画があふれている。

 調理師や管理栄養士、あるいは料理研究家が発信する料理レシピ動画、食品関連企業が発信する料理レシピ動画もあれば、その他の個人が発信する料理レシピ動画もある。

 いずれにしても、料理レシピ動画には圧倒的な情報量がある。料理の手軽さや面白さを伝えることができ、視覚的なアピールも相まって、食事づくりのハードルを下げることに大いに貢献している。

 さて、料理番組にしても、ソーシャルメディア上の料理レシピ動画にしても、動画にはその情報の量と性質ゆえに、良くも悪くも副作用がある。

 料理レシピは本来、特定の料理を作るための材料や分量、調理の手順を示すことに主眼がある。見る人もおそらく、それを期待している。

 しかし動画となると、調理に伴うさまざまな動作や設備についての非言語情報も含まれてしまう。

 そこには、手指や調理器具の洗浄、食材の取り扱いなども含まれる。そしてそうした情報は、見る人に少なからず影響を与えることがわかっている。

 ドイツ連邦リスク評価研究所のセヴェリン・コッホ博士らの実験的研究(2021年)によれば、適切な衛生行動を伴う調理動画を見た人は、不適切な衛生管理を伴う調理動画を見た人に比べて、より衛生的な調理行動をとったことが報告されている。

 実際の料理番組や料理レシピ動画はどうだろう。料理番組の場合は、スタジオ設備の都合もあるかもしれないが、たとえば、生の肉類を素手で扱った後の手洗いについて、適切になされているケースも多いが、ごく簡略化されているケースも目撃される。料理レシピ動画の場合は、これまたさまざまなのだが、「映(ば)え」ない手指や調理器具の洗浄工程は、カットされ編集されているものも散見される。

 圧倒的な情報量で、アピール力も影響力も絶大な動画だからこそ、こうした副次的な効果を意識した料理番組や料理レシピ動画の制作がされることを願う。さらには、衛生面だけではなく、環境に配慮した調理行動も含めて、望ましい調理行動についてのコミュニケーション媒体として、動画がより活用されることを願う。

きとう・やよい  愛知県出身。京都大学大学院農学研究科修了。2019年から同研究科講師。消費者行動、リスク認知などを研究。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.44からの転載】