九州北部の海・玄海灘に浮かぶ壱岐は、古代から本州と大陸を結ぶ交易の要衝として栄えた島で、島内にはその歴史を物語るさまざまな痕跡が残されています。そのなかでも、いまじわじわと注目されているのが古墳です。「え、古墳ってただのお墓じゃないの?」と、感じたあなた、いやいや実は古墳ってすごい魅力があるんです! そこで今回編集部は、古墳シンガー・まりこふんさんとともに、壱岐の古墳巡りツアーに参加。まりこふんさんと古墳の魅力を通して壱岐の魅力を再発見してきました。
古墳の聖地・壱岐を巡るバスツアー出発!

博多港からジェットフォイルで約1時間。壱岐の玄関口・芦辺港に到着したのち、編集部もワクワクしながらバスへ乗り込んでいよいよ古墳巡りツアーがスタート。発売開始からわずかで満員御礼となった本ツアーの車内は、すでに古墳ファンたちの熱気と期待をヒシヒシと感じる……!
今回、編集部が同行したのは、古墳シンガー・まりこふんさんが会長を務める「古墳にコーフン協会」と「壱岐市観光連盟」がタッグを組んで行われた『古墳シンガー・まりこふんとゆく!国境の島・壱岐 古墳巡りバスツアー2日間』。

まりこふん
古墳シンガー
日本全国の古墳をめぐり、その魅力を楽曲にのせて発信している古墳シンガー。いままで見てきた古墳は3,000基以上。遺跡をテーマにした楽曲を制作・ライブ出演するほか、テレビ・ラジオ・講演など幅広く活躍し、分かりやすく楽しい解説で古墳ファンを増やしてきた第一人者。老若男女問わず数多くが在籍する「古墳にコーフン協会」の会長も務める。
【Instagram】
現地学芸員の解説によると、「壱岐には、長崎県内の約6割にあたる280基を超える古墳が現在も残されているんです。壱岐はかつて本州と大陸を結ぶ交易の要衝として重要な役割を果たしていました──。」とのこと。
6世紀は朝鮮半島に精通した有力者が中心となり次々と大型の古墳を築造し、それを取り囲むように有力者たちに仕えた者たちが小規模の古墳を作り、7世紀になると交易で成功した者や漁で成功した者など力を持った地元の有力者たちも古墳を次々と築造したため島内にはたくさんの古墳があったそうです。
さらに島という地理的条件から大規模な開発が進まなかったことも、古墳が良好な状態で残った理由の一つと言われています。
なるほど、それが“一つの島”の中での出来事なのだから、壱岐が“古墳の聖地”と呼ばれるのも納得。さて、そんな壱岐の古墳についてを簡単に学んだところで、いよいよ一発目の古墳スポットに到着!
大塚山古墳

5世紀ごろに築造されたとされる島内最古級の「大塚山古墳」。シュッとしたフォルムが特長的で、前方後円墳しか知らなかった古墳ビギナーな筆者は、思わず「すごい……」とつぶやいてしまうほどのかっこよさ。

右:壱岐の空と古墳の対比が美しい。はるか昔から変わらない双方の姿に思わず胸が締め付けられる
約1,500年もの間、この場所にじっと存在し続けてきたことを考えると、どこか尊さや強かさのようなものを確かに感じる……! あれ、これが古墳のロマンってやつ!?

まりこふんさん
まりこふんの“推し”ポイント!
まず、頂点にかけて尖がったようなフォルムにびっくり!これまで3,000基以上の古墳を見てきましたが、この形はかなり珍しい……。石室は切り石を積んでいて、古墳時代前期に主流だった竪穴式石室から横穴式石室へと切り替わる時代に見られる造りで、時代の過渡期を感じられる古墳です。

右:はらほげ地蔵 左:うにめし食堂はらほげ
ちょっと寄り道!はらほげ地蔵&うにめし食堂はらほげ
八幡浦の海中に祀られている6体のお地蔵様。お腹の部分がえぐれているのが特長で、壱岐でお腹が凹んでいるという意味をもつ“はらほげ”という言葉が名前に。付近にある「うにめし食堂はらほげ」では、壱岐の郷土料理・うにめしの定食(1,580円)を味わえる。
はらほげ地蔵うにめし食堂はらほげ
鬼屋窪古墳

続いてやってきたのは「鬼屋窪(おにやくぼ)古墳」。「え、これって古墳なの?」と一瞬戸惑ったあなた、安心してください、歴としたちゃんとした古墳です。

このちょっと不思議な見た目は、在地の有力者が双六古墳などを見て、見よう見まねで作ったので盛土を固めるための技術者を雇うことができず、半人前の技術者が盛土をしたのでのちに雨風で土が流れ出して石だけになってしまったとのこと。一言で古墳といっても、いろいろなタイプがあることに衝撃!

まりこふんさん
まりこふんの“推し”ポイント!
墳丘が失われ、内部の石室がむき出しになっている古墳はいくつか国内にいくつかありますが、複数の部屋をもつ“副室構造”が丸ごと露出している例は極めてレア。
部屋を仕切る石がどのように配置されているのか……その構造が視覚的に確認できるのは、この古墳ならではの楽しみ方。古代の舟が描かれている線刻画にも注目してみて!

猿岩
ちょっと寄り道!猿岩
猿の横顔のように見える奇岩。壱岐に伝わる神話・八本柱のなかの一柱とされている。遠近法を利用して、手の上にのせたり、頭をなでたりするように写真を撮影するのが人気。
猿岩
掛木古墳

さあどんどん行きましょう。「掛木古墳」は、6世紀後半~7世紀前半ころに築造されたとされる、南北22.5m、東西18m、高さ7mほどの中規模サイズの円墳。もっこりと丸っこいフォルムがなんとも可愛らしい!

なんと内部に入ることができてしまうこちらの古墳。ちなみにここだけでなく、壱岐の古墳は石室までの入口が石などで塞がれておらず、オープンになっているものが多いのが特長の一つ。内部はちょっとひんやりと、土のよい香りが充満していて、非日常な空間を体験できるのがおもしろい。

まりこふんさん
まりこふんの“推し”ポイント!
お饅頭のようにコロンと丸いフォルムがたまらなく可愛い古墳!
こんなふうにボコッと隆起した立体的なかたちは、国内の一般的な古墳というよりも、どこか韓国や大陸の古墳を思わせる雰囲気があります。そして驚きなのが、石室の中に石棺がまるっと残っていること。荒らされることなくそのままの状態で残っているのは本当に貴重で、訪れた人に“オープンに歴史を見せてくれている”ような親切さすら感じます。
笹塚古墳

掛木古墳をあとにして壱岐の森を歩いていると次なる「笹塚古墳」に到着! 直径66m、高さ13m、石室全長15mにもなる県内最大級の円墳で、その巨大な規模から壱岐のなかでも強力な有力者のための古墳と考えられてるのだとか。

金銅製亀形飾金具
副葬品なども数多く出土していて、そのうちの160点以上が国の重要文化財に登録されているとのこと。一説には、かつての中央政権(現・奈良県)と縁のある有力者が埋葬されたという説も!? それだけで考察できるのってすごいよなあ。

まりこふんさん
まりこふんの“推し”ポイント!
墳丘が見えないほどに草木を纏っていて、生々しさやワイルドさを感じるこちらの古墳。訪れる前には、全国で唯一ここから出土した「金銅製亀形飾金具」をぜひチェックしてからがおすすめ。事前に情報を入れておくことで、どのような人が埋葬されていたんだろう? といったように、より深い古墳見学ができはず!

左:壱岐市立一支国博物館 館内 右:本バスツアーでは、壱岐の古墳についてのセミナーほか、まりこふんさんの特別ライブも行われ大盛り上がり
ちょっと寄り道!壱岐市立一支国博物館
島内に点在する遺跡や古墳から出土した貴重な実物資料など、約2,000点を展示する博物館。館内には笹塚古墳の全体像を再現した模型をはじめ、「金銅製亀形飾金具」や、「人面石」などを展示。土器の接合パズルといった触れて学べる体験も多い。
【一般:410円/高校生:310円/小中学生:210円】
壱岐市立一支国博物館
双六古墳

どーん!と存在感抜群の「双六古墳」は、全長91m、後円部の直径43m、高さ10mにもなる県内最大級の前方後円墳。この古墳を前にすると、すさまじいスケールで圧倒される……(現地で見ないとこの迫力は伝えきれない)。

左:石室の入口には花や酒などが備えられている 右:前方部には道が引かれており、写真映えも◎
笹塚古墳や掛木古墳同様、かなりの有力者の墓と考えられており、国史跡に指定されているこちらの古墳。とはいえ、後円墳部分は登ることもOK! 壱岐の古墳ってただ見るだけなくていろいろな形で触れ合えるのがいいところ。

まりこふんさん
まりこふんの“推し”ポイント!
やっぱりここは圧倒的なスケール感がまず最初の見どころ。掛木古墳のようにボコッとしている後円と平べったい前方の高低差がかなりあって、これもかなり珍しい形です。そもそも前方後円墳は、ヤマト中央政権と結びつきが強くなければ作れない(※)といわれているので、相当な有力者が埋葬されていたのでは? と考えると、それだけでもロマンがたっぷり。開放的なロケーションも抜群なので、墳ピク(古墳ピクニック)がてら、ゴロンとして全身で古墳を堪能するのも◎
※諸説あり

原の辻遺跡
ちょっと寄り道!原(はる)の辻遺跡
3世紀に編纂された「魏志」倭人伝にも登場する「一支国」の王都に特定されていた遺跡。静岡の登呂遺跡、佐賀の吉野ケ里遺跡とともに、弥生時代の遺跡として特別史跡に指定されている。隣接する「原の辻ガイダンス」では日本最古と考えられている船着き場を再現した模型の展示や、瑪瑙(めのう)を削る勾玉作り体験が楽しめる。
原の辻遺跡
鬼の窟古墳

古くから鬼に関する伝承が残る壱岐。6世紀後半から7世紀前半に築造された「鬼の窟(いわや)古墳」は、古墳を構成している石の巨大さから、怪力の鬼によって造られた、という逸話も残るユニークな円墳。

前室・中室・玄室の三室構造両袖式の横穴式石室は、全長16.5mで島内最長規模! 壁面に江戸時代に書かれた落書きが書かれていたり、最奥の玄室に観音像が鎮座していたりなど見どころの多さは随一! いやあ古墳って本当にいろいろな表情があるなあ。

まりこふんさん
まりこふんの“推し”ポイント!
入口からも見える閉塞石の存在がまずニクい(笑)。一見、入りずらくもあるけど、臆せずに中へGO! 国内でも稀有な距離と複数の部屋を構えた石室を巡れば、古代遺跡を冒険するインディー・ジョーンズのような気分に。懐中電灯と軍手を装備して、アドベンチャー気分を体験してみて!
壱岐の古墳にコーフン!個性豊かな古墳の世界
旅の途中で「人それぞれに人相があるように、古墳にもそれぞれに“墳相”があるんです!」と、まりこふんさんが語った言葉の通り、今回巡った古墳は丸っこくて可愛い円墳もあれば、圧倒的なスケールの前方後円墳もあったりなど……どれも個性豊か。
いままでは単なる遺跡としか思っていなかったけど、いつの間にか前のめりで見入ってしまうような魅力が古墳にはある。そのことに気が付けたのはきっと、ただ見るだけ意外の楽しみ方ができる壱岐の古墳と出会えたからかもしれない。
ツアーを終え、福岡港へ戻るジェットフォイル船に揺られながら、「次に壱岐へ来たときは、この古墳を見たいな……」と、壱岐の古墳に出会う前にはなかった気持ちを抱えた自分に気づく。あ、古墳にコーフンってこういうこと!?
壱岐には今回紹介した古墳や遺跡、施設のほかにもさまざまな魅力的あふれる観光スポットが目白押し! ぜひ、訪れる際には壱岐市観光連盟が運営する「壱岐観光ナビ」をチェックしてみてください。
[Writing/Photo by tsuchida yosuke]
[取材協力]
一般社団法人壱岐市観光連盟
壱岐市文化スポーツ振興課
古墳にコーフン協会会長 まりこふん
うにめし はらほげ食堂
壱岐市立一支国博物館
原の辻一支国王都復元公園
TABIZINE
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