善意で支えるドナルド・マクドナルド・ハウス  難病の子と家族、プロ野球選手会も支援

ドナルド・マクドナルド・ハウスを訪れたソフトバンクの中村晃選手
ドナルド・マクドナルド・ハウスを訪れたソフトバンクの中村晃選手

 難病の子どもとその家族を支えるドナルド・マクドナルド・ハウス(以下ハウス)。高度な小児医療を施す病院の近くに設けられ、通院や入院の子どもに付き添う家族が、低料金(1日千円程度)で宿泊などに利用できる。こうした施設は、遠方から治療を受けに来ている場合や、常に付き添いが必要な低年齢の子どもが患者の場合など、家族の負担を少しでも減らすのが狙いだ。しかし、経済的な側面にとどまらず、同じ境遇だからこそ分かり合える利用者同士の心の助け合いもある。そして、施設の運営は多くの人の善意によって支えられている。

▽運営を担うボランティア

ハウスを利用する親子
ハウスを利用する親子

 名前が示す通り、最初は日本マクドナルドの全面支援で始まった。ハウスを運営するために公益財団法人「ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン(以下、DMHC)」が設立され、2001年に東京都世田谷区の国立成育医療研究センターの隣りに第1号のせたがやハウスが建設され、事業はスタートした。その後、全国で建設され、現在は札幌から福岡まで11のハウスがある。これまで延べ7万家族が利用してきた。ハウスの運営を担当しているDMHCの山本実香子事務局長によると、少子化や病院の統廃合の影響もあり、新規のハウス建設は今後大きく増えることはないという。高度の小児医療を施す病院が限られるうえ、何より大事なことは建設することより運営していくことだからだ。

 施設の建設には数億円の費用が必要であり、そのためには土地の無償提供や建設費の補助など、病院や自治体の協力が必要だ。建設した後の運営はDMHCが責任を持つ。全国で一番大きなせたがやハウス(23室)で、年間の維持費は約3000万円。施設の専任職員は4人で、手伝ってくれるボランティアの確保は欠かせない。その数は1施設当たり約200人。50代、60代の年配の主婦が多いそうだ。子育てを経た主婦ほど、家族の看病や付き添いの苦労を理解しているのだろう。

▽選手の寄与で理解進む

ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの山本実香子事務局長
ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの山本実香子事務局長

 ハウスでの生活は、山本事務局長によると「付かず離れずの距離感がいい」という。疲れている時に過剰な関与は負担になるだろうし、かといって関心を持たれないのもさみしい。お帰りなさいと迎えてくれ、困った時はそばにいてくれる。自宅を離れ慣れない土地で暮らす不安をぬぐってくれ、子どもの病状についての情報も親同士で共有できる。整理整頓で室内は常に清潔に保たれ、気持ちが落ち込むこともない。施設維持のための運営費をいかに生み出していくか。最後は人の善意が頼りだ。

 2020年、日本プロ野球選手会がハウス支援を申し出た。趣旨に賛同した28選手が、20年シーズンの自分の成績に応じた寄付をするのだ。例えば、最高額になった楽天の鈴木大地選手は1安打1万円で、計141安打で141万円。ポストシーズンを含め登板1イニングで1万円のソフトバンクの千賀滉大投手は、計135イニングで135万円といった具合だ。20年シーズンの寄付総額は1085万9000円になった。プロ野球選手の支援は単に金額の多寡ではない。「野球選手は子どもたちの憧れなんです。さわやかで知名度のある選手が協力を発信してくれることで、一般への理解と浸透も格段に進む」と山本事務局長は強調する。

 ちなみに、マクドナルドと選手会を結びつけたのも「子ども」だった。1986年から学童野球の大会「マクドナルド・トーナメント」の特別協賛をしてきた同社は、その大会会場にもハウスへの募金ブースを設けていた。今回の寄付の取り組みは、それを選手会のメンバーが目にとめたのがきっかけだ。

高円宮賜杯 全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント
https://www.mcdonalds.co.jp/scale_for_good/our_communities/sports/mcd_tornament/

2020年にハウスを支援した各球団の選手とその内容
2020年にハウスを支援した各球団の選手とその内容

 

▽家族も関心、ウィンウィンに

「HEROs AWARD 2020」授賞式に出席した炭谷銀仁朗プロ野球選手会長
「HEROs AWARD 2020」授賞式に出席した炭谷銀仁朗プロ野球選手会長

 病気の子どもだけでなく、試合の入場券をプレゼントされたりして兄弟や姉妹、親御さんも、協力してくれた選手やチームに興味を持ち始め、みんなが楽しめる「ウィンウィンの関係」になったという。

 今回の寄付とは別に、ふくおかハウスへは地元のソフトバンクの中村晃選手が、さいたまハウスには西武の中村剛也選手、増田達至投手が以前から訪問していた。DMHCが発行する年間報告書には、寄付をした企業名に交じって3選手の名前が記載されている。選手会の紹介で訪問を始めたという中村晃選手は「最初は誰かのために力になれたらいいな」と思い訪ねたそうだが「初めての時は何をどう話せばいいか戸惑った」という。しかし、子どもや家族の笑顔に触れ「自分にできることは野球。野球を頑張ればいいんだ」と気持ちを新たにしたという。

 2020年、新型コロナウイルスの感染防止基金に選手会が協力したところ、短期間で約8億7000万円とクラウドファンディング国内史上最高額を集めたように、プロ野球選手の発信力は極めて高い。ハウス支援の活動と感染防止基金への協力が認められ、プロ野球選手会は日本財団が主催する「HEROs AWARD 2020」を受賞した。社会貢献に取り組むアスリートを表彰する同賞の受賞に、炭谷銀仁朗選手会長は「みんなでやってきたことが評価され素直にうれしい。史上最高額を集めたプロ野球選手の発信力はすごいなとあらためて感じた。若い選手も積極的に参加してほしい」と語る。選手の社会貢献活動が、新たなファンの獲得にもつながるのなら理想的な循環だ。

▽今後は学習支援も

 病気の子どもだけでなく、付き添いの家族にも支援の目を向けたのは、1970年代米国が始まりという。ハウスも長い歴史があり、現在、世界で45の国と地域で376カ所(20年5月末現在)開設されている。宿泊や食事に対する支援だけではなく、治療や看病で本人や兄弟の学習の遅れを取り戻すことも必要だ。先進国のオーストラリアでは2年間、無償で家庭教師を付けることも行われている。日本マクドナルドが始めたフィランソロピー(慈善活動)の動きを、プロ野球選手会のサポートで世に知らしめ社会全体で分担するようになれば、真の共生社会実現への確かな歩みとなる。