比大統領は娘サラ氏が継承か

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ダバオの日本総領事館開設式典に参加したドゥテルテ大統領の娘のサラ・ダバオ市長=2019年2月(筆者撮影)

 来年5月の次期大統領選まであと1年余りとなり、フィリピンでは徐々に選挙ムードが高まっている。

 大統領選をめぐる2月の世論調査でトップに立ったのは、支持率22%を得たドゥテルテ大統領(75)の娘でミンダナオ島ダバオ市長のサラ氏(42)だった。2位は前回の大統領選にも出馬した有名俳優の養女グレース・ポー上院議員、3位にはボクシングで6階級を制覇した国民的英雄のパッキャオ上院議員とボンボン・マルコス元上院議員が並んだ。ボンボン氏はかつて長期独裁政権を築いたフェルディナンド・マルコス元大統領の長男。4人とも国民の誰もが知る人物で話題には事欠かない。

 パッキャオ氏は、一昨年7月以来試合をしてないとして最近、世界ボクシング協会(WBA)ウェルター級王座のタイトルを凍結されたが、42歳の今も現役ボクサーだ。仮に大統領に当選しても、ボクサーを続ける可能性はある。一国の元首がタイトルマッチのリングに立つという前代未聞のイベントが見られるかもしれない。

 ボンボン氏が勝った場合も「あの独裁者の息子が大統領に選ばれるのか」と国際的な関心を集めるだろう。

 しかし、本命視されているのは、やはりサラ氏だ。人気の高さには、もちろん「親の七光り」もある。ドゥテルテ政権の支持率は政権発足後4年9カ月を経た今も80%を超えており、国民の多くは徹底した犯罪取り締まりや汚職撲滅政策を継承する候補を望んでいる。

 ただ、サラ氏は少なくともありふれたタイプの市長ではない。2011年7月には、違法占拠住民の強制立ち退き執行の際、市長として現場に現れ、ダバオ地裁の男性職員を拳で2発殴って執行を阻止するという事件を起こしている。

 女性市長による暴力事件としてマニラの新聞も盛んに報じたが、左派系女性政党は「都市貧困層のために立ち上がった」とサラ氏を称賛。国民の多くも「すごい女性市長がいる」と面白がった。

 実際にダバオで会った時の印象は物腰の柔らかい気さくな女性だったが、内に激しい気性を備えていることは間違いない。剛腕で知られるドゥテルテ大統領さえ、サラ氏の気性の激しさは「私よりひどい」「ドゥテルテ家を牛耳っているのはサラ」と言っている。

 今のところ、サラ氏自身は次期大統領選への出馬を否定、ドゥテルテ大統領も「娘の出馬はない」と言い続けているが、これは世論調査で人気が先行するとネガティブキャンペーンにさらされがちなため、土壇場まで出馬表明を控える選挙戦術との見方が強い。

 フィリピンの大統領は1期6年のみで再選は禁止だ。しかし、大統領が次に副大統領に出馬することは禁じられていない。このため、次期選挙では娘が大統領候補、父が副大統領候補として出馬する「ドゥテルテ―ドゥテルテ」ペアが最強との声もある。「ドゥテルテ政権」は実質的にまだまだ続きそうな気配が漂い始めている。

日刊まにら新聞編集長 石山 永一郎

 

(KyodoWeekly3月8日号から転載)