時流に弄ばれるMMTの現在地

 

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 現代貨幣理論(MMT)の「その後」が気になっている。日本のように、自前の通貨を発行できる国家は破綻せずインフレのリスクが高まらない限り財政赤字を膨らませても支障はないとする経済理論のことで、本誌でも何度か取り上げてきた時事テーマだ。

 財務省が政府資料の数ページを割いて名指しで批判し、財政規律を重んじる主流派経済学者からも軒並み「現実を見ない無責任な主張」と異端視されてから3~4年。この間にコロナ禍とそれに伴う大型の財政支出があり、MMTの捉え方や読み解きが微妙に変化してきたように思う。矢野泰治・財務事務次官が財政健全化への危機感を訴え、月刊誌に寄稿したのは昨年10月。折しも衆院選で与野党が華々しく競った公約の数々を「バラマキ合戦」のようだと評し、日本の財政の先行きに官僚の立場から警鐘を鳴らし、大きな話題を呼んだ。

 これに「大変失礼な話」などと真っ先に批判的な反応を示したのが、自民党の政調会長となった高市早苗氏だ。そしてその高市氏が昨年12月、立ち上げたのが「財政政策検討本部」。もともと岸田文雄首相が政調会長時代につくった「財政再建推進本部」を改組・改称し、積極財政色を強めた。

 検討本部がこれまでに呼んだ講師は「現代貨幣理論MMTとケインズ経済学」の著者でエコノミストの永浜利広氏や、「MMTとは何か」の著者で経済評論家の島倉原氏など。事実上のMMT勉強会と言われても仕方ない。

 保守系のオピニオン誌「クライテリオン」1月号で高市氏はこの検討本部について「緊縮財政派の方も積極財政派の方もお呼びして広く議論しようという考え」だと釈明している。しかし財政収支を単年度で論じることの弊害や、プライマリーバランス黒字化をいったん凍結し投資を先行させることで結果的に税収増が期待できるなどの自説にホンネが透けて見える。

 このインタビューにMMTという言葉は1回も登場しない。「国債のデフォルトもインフレも心配ないのだから、いくらでもお札を刷って使えばいい」というふうにも聞こえるMMTの極端な身もふたもない筋立てには触れず、理論のパーツをうまく織り交ぜて説明している印象だ。実際、高市氏の著書「美しく、強く、成長する国へ。」の中でも似たような表現が出てくる。

 MMTをタブー視せず、学ぶべき要素を探ろうとの声は経済界にもある。「財政健全化をしなければ、いまに国債価格が急落して財政が破綻するぞと言い続けてきたオオカミ少年も白髪が生えるころ」と揶揄(やゆ)するのは、オリックスの宮内義彦氏だ。「MMTの考え方を日本経済にどう当てはめるべきか真剣に考えるべき時期に来ています」と、最近のブログで語っている。

 2022年度予算案は一般会計総額が107兆円と過去最大になる。22年度末の国債残高もまた1026兆円と過去最高になる見通し。一方、今夏の参院選を控えて財政再建より財政出動を優先的にアピールしたい人々の言動に、MMTに陰に陽にすがりたくなる気持ちが見え隠れするのも確かだ。理論の是非はさておき、そんな思惑に弄(もてあそ)ばれ、渦中の学説は新しい表情を見せ始めている気がする。

(知的財産アナリスト 竹内 敏)

 

(KyodoWeekly1月17日号から転載)