日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は今年3月「四国全県単線新幹線と地域発展」を提言した。全国で唯一新幹線の空白地帯となっている四国地域の発展を図っていくため、「新幹線を骨格とした高速交通ネットワークの早期整備」が不可欠である。
この新幹線整備構想においては、本州との間で新幹線でつながっていない四国地域における交流人口の拡大をもたらし、地域経済の活性化や観光振興に寄与し、そのストック効果により関西圏を含む広域経済圏の成長を加速させることが可能となる。
背景として、四国地域においては、全国最速で人口減少や高齢化が進み、経済・産業がやや弱い面があるものの、自然、歴史、文化などの潜在的ポテンシャルがある。
にもかかわらず、その魅力を十分に発揮しきれていない。また、公共交通網として鉄道整備が遅れており、単線区間がほとんどで電化されていない区間も多く、隣県都間への移動に時間がかかる現状を挙げている。
こうした課題を解決するのが「単線方式の新幹線」である。単線だと建設費が削減できるメリットがあり、事業費を約1兆円およびB/Cは1・56と試算する。
また、単線新幹線のダイヤを、観音寺駅(香川県)―伊予西条駅(愛媛県)で検証したところ、同区間に行き違いがない場合でも約40分間隔、行き違いを設置すれば約20分間隔で運行でき、現在の特急電車と同等の間隔で運転できるとしている。
次に、新幹線整備の方策として、①既存インフラストックの有効活用(例)瀬戸大橋は新幹線規格であり、既存ストックを有効利用できる好材料②短絡線トンネルによる在来線の高速化(例)松山~伊予小松間約30キロの短絡トンネルにより在来線の高速化を実現し、将来的に新幹線として継続利用③単線新幹線の海外インフラ輸出への技術活用(例)鉄道インフラ輸出の新たな方策として、単線新幹線に向けた技術開発の推進と早期整備④民間資金の活用(例)整備新幹線方式を基本として、民間資金(ボンド)などを活用した早期の資金調達︱などを提示している。
四国は野球をはじめスポーツが盛んな地域であることから、競技施設などのハード整備に限らず、スポーツに関する科学技術、医療技術、教育といったソフト面を充実させた世界に類をみない都市を四国中央部に創設する「国際スポーツ都市構想」を提言している。四国の中心から、その魅力をグローバルに発信し、スポーツ関連産業を国内外から集約することで四国4県の連携を強化する。
観光に関しては、「世界的に著名な島と比べて、知名度が低い」と指摘している。
一例として四国八十八カ所霊場巡り(四国遍路)を挙げる。スペインの巡礼路「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」に多くの観光客が訪れていることに比べ、四国遍路はインバウンド(外国人観光客)を呼び込めていない。4県空港と連携して、オープンジョー(入る空港と出る空港を別にして地上交通機関を利用した旅行が含まれる旅程)により観光回遊性を高めることで、インバウンドの長期滞在型の観光需要を誘発し、国際交流人口の拡大を図る。
「新幹線導入に伴う公共交通の効率化」も重要だとしている。比較的交通密度の高い区間においては、パターンダイヤや、多様な交通手段を一体的に提供するMaaSの導入により、一方交通密度の低い区間においては、既存駅に加えて乗降所を追加したバス高速輸送システム(BRT)の導入により、利便性と旅客サービス向上につなげることができる。
さらに、四国にはJR四国、民間、第三セクターという鉄道各社が混在していることから「四国版運輸連合」を提唱している。これはドイツにおける運輸連合の運営を模範にして、利用者利便性の優れた公共交通サービスの提供を目指すものである。運輸連合により、共通パスを使って改札のない乗車で利便性を図り、四国内でストレスフリーの交通サービスを提供する事業として一体化させる。
運輸連合は、全ての鉄道関連資産を上下分離方式で所有し、各鉄道会社は旅客運営に専念し、旅客サービスの向上に努める。一方、維持管理業務を施設ごとに一括委託し、設備の共通化や保守の効率化を実現していく。
ポテンシャル
本州と四国が新幹線で結ばれることで、さまざまな経済効果を四国地域はもとより、関西圏や瀬戸内地域にもたらし、わが国の将来と次の世代に大きな貢献ができると確信する。
また、高規格の新幹線の施設は、地震などの災害に対して強靱(きょうじん)であり、四国県都間の連絡において、新たに強靱な高速交通モードの付加が実現され、災害に対する耐力の向上が見込まれる。
最後に、新幹線の実現により四国4県の交流が深まり、在来線を含めた公共交通の活性化を促し、四国が持つポテンシャルを顕在化させ、その魅力を国内外に広く発信することで地域発展に貢献できる。
× × ×
JAPICでは、「四国振興のためのインフラ整備の実現に向けて」と題するシンポジウムを四国新幹線整備促進協議会と共催で四国にて2回開催した。今後も発信を続け「四国全県 単線新幹線と地域発展」に向けて、プロジェクトの深化に努めていく。
【筆者】
JAPIC国土・未来プロジェクト研究会委員
大成建設(株) 土木本部 土木企画部長
岩野 政浩(いわの・まさひろ)
(KyodoWeekly7月18日号から転載)