
アジアでは、一部の国を除いて新型コロナウイルスをめぐる「防疫戦争」にようやく終息の気配が見え始めている。
さまざまな国の感染者数、死者数の推移を調べてみると、感染者数、死者数の1日平均の増加率が1%を切ると感染は抑制傾向へと進み、0・1~0・2%になるとほぼ終息と言っていいようだ。東南アジア諸国連合(ASEAN)内では現在、マレーシアが前者の水準にあり、タイが後者の水準にある。
ASEAN内の謎は、ベトナム、カンボジア、ラオスのインドシナ3国の感染者の少なさだ。
最多のベトナムでも5月7日現在で271人にとどまっており、3国とも死者数はゼロ。いずれも報道の自由度が低い国ゆえ、実態が隠ぺいされている可能性が高いとも思われてきたが、ベトナムは4月22日から外出制限を大幅に緩和しており、新型コロナ封じ込めにほぼ成功したことは間違いないようだ。
一方で、ASEAN内でも外国人労働者のクラスターから感染が急拡大しているシンガポール、周辺国と比べて対策が遅れ気味だったインドネシア、そしてフィリピンの海洋アジア3国は、まだ「防疫戦争」の真っただ中にある。
中でもフィリピンの状況が厳しい。ドゥテルテ政権はいち早く2月2日、中国、香港、マカオからの入国禁止措置に踏み切った。また、厳しい外出制限を伴うマニラ首都圏の防疫強化措置の実施を3月15日にいち早く宣言、飲食店、ショッピングモール、ホテルなどの閉鎖を実行してきた。公共交通機関もすべて止めた。
以来、1カ月半が過ぎたが、5月7日現在の感染者数は1万4人で1日平均3%の増加が続いている。死者数は658人となり、人口10万人当たりの死者数ではアジア太平洋諸国の中で最悪となっている。
理由として考えられるのは、感染検査の実施数が人口10万人当たり127人と先進国の10分の1~50分の1と少ないことだ。
入国制限や外出禁止令などは早かったが、潜在的感染者の早期発見で後れを取ったためか、封鎖された首都圏内の感染拡大が特に著しい。また、医療従事者の感染数が非常に多く、ほぼ崩壊状態にある医療現場が、感染の新たな発生源になっているとの見方さえある。
ちなみに日本も10万人当たりの感染検査数では先進国中最低で、フィリピンをやや上回るぐらいだ。感染者の早期発見で後手に回っている点では共通している。
日本では今も公共交通が通常通り動き、果てはキャバクラやパチンコ店の一部が営業を続けているとマニラで聞くと、彼我の差に驚く。
日刊まにら新聞編集長 石山 永一郎
(KyodoWeekly5月18日号から転載)