世界一長いクリスマスシーズンも自粛ムード

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マニラ首都圏の通り沿いでパロルと呼ばれる伝統式ランタンを売る店。今年の売り上げは「昨年より落ちている」という(筆者撮影)

 フィリピンのクリスマスシーズンは世界一長いことで知られる。英語の月名の末尾に「BER」が付く9月から始まり、12月末まで続く。実際にショッピングモールなどでは9月からクリスマスの飾りつけが始まり、サンタクロースの人形も登場する。

 ただ、今年のサンタ人形は新型コロナ禍の中、みなマスクを付けているのが物悲しい。

 9月から始まるとはいえ、やはり本格的なクリスマスムードが高まるのは、台風の襲来が収まり、乾期が始まる11月末ごろからだ。例年の今ごろのマニラ首都圏は華やかな電飾に彩られる。

 貧困層も含め、伝統的なランタンであるパロルと呼ばれる大きな星型の点滅式電飾を家の入り口に取り付ける。さらには家の外側に電線を張り巡らせて派手な電飾を輝かせる家もある。

 ビレッジと呼ばれる高級住宅街の中には、自治会が「今年の電飾の色は白」などと決め、色調を統一する所もある。そういうビレッジの夜の光景は小雪が降り積もったかのような輝きに包まれ、歩いて回るだけでもうっとりする。

 ただ、残念ながら今年は、新型コロナ禍でクリスマスの祝いの自粛ムードが広がっている。町中の電飾も明らかに例年よりも控えめだ。

 フィリピンの新型コロナの新規感染者数は、11月後半以降、1日数百人から千数百人台の日が続いており、1日6千人以上を記録した第2派ピーク時の8月半ば以降、減少傾向がはっきり見られている。

 しかし、政府はクリスマスシーズンのギフトや電飾の買い出し、さらにはパーティーなどで外出者が増えるこの時期の感染再拡大を懸念、さまざまな通達を出している。

 その一つがクリスマスパーティーの人数制限で、マニラ首都圏では最大10人までとなった。一つの家に親戚を含めて5、6人が住むフィリピンでは、貧困層でも例年は数家族20人以上が集まり、クリスマスパーティーを開くが、10人までとなると、今年はほぼ家族単位のパーティーとなりそうだ。

 フィリピンのカトリック教会も「今年のクリスマスは物を求めず、より精神的な祝いにするように」と呼びかけている。

 フィリピンでは、12月16日から9日間、明け方に教会がミサを行う「シンバン・ガビ」と呼ばれる伝統行事があるが、ふだんのミサで既に実施している通り、限られた人数しか聖堂内には入れず、距離をとって信者を聖堂外の椅子などに座らせる方針だ。

 フィリピンの新型コロナによる経済的打撃は東南アジア諸国内で最も大きいとされ、世界銀行は今年の経済成長率をマイナス8・1%と予測している。クリスマス好きのフィリピンの庶民も、失業などで今は日々の糧を得るだけで必死だ。今年に限っては、ささやかな祝いとせざるを得ない状況に置かれている。

日刊まにら新聞編集長 石山 永一郎

 

(KyodoWeekly12月21日号から転載)