NTT東日本が昆虫食ビジネスに参入する。徳島大学発のベンチャー企業グリラス(徳島県鳴門市)の食用コオロギの効率的な大量飼育実現のためにNTT東日本が培ったICT(情報通信技術)を活用してサポートする。
まず、NTT東日本は、コオロギを飼育する室内の温度や湿度、二酸化炭素(CO2)濃度、室内の明るさをはじめとする環境データを、センサーによって収集する。また、センサーと各種電子機器をHEMS(Home Energy Management System)によって可視化および一元管理することで、コオロギにとって最適な環境を自動制御する。
さらに、画像認識AIを使い、センサーを使って収集したデータを分析。それによって、コオロギの飼育環境内で発生した異常やその原因の探知、コオロギが食べたエサの量の測定などを行うことで、飼育方法のさらなる向上や、各種コストの低減を目指す。ここで得られた分析結果を基に、自動給餌などの高度な飼育方法の開発への寄与を目指す。
これらの措置を通して、コオロギ飼育における省人化および効率化につなげていきたいとNTT東日本は強調。スマート飼育環境の構築・確率を目指すとともに、今後の需要拡大を見据えて、飼育施設拡大も含めた事業化に向けての検討をする。
「ICTを活用しての大量生産に向けた自動養殖システムの検討は、グリラスさんの喫緊の課題であると認識しており、当社(NTT東日本)のICTを活用することで食用コオロギの供給拡大に寄与できると考えています」と篠原弘明(しのはら・ひろあき)NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 担当課長はいう。
NTT東日本グループのソリューションなどの取り組みを一堂に展示しているNTT中央研修センター(東京都調布市)内に、グリラスとのスマート食用コオロギの飼育施設「コオロギブース」を1月から設置。同ブースには、センサー、発電ガラス、電圧冷蔵庫、自動清掃ロボットなどが備えられている。「NTT東日本はベニザケのスマート飼育を手がけており、こういった事例を参考にしていく」と篠原担当課長。
NTT東日本は、同ブースの稼働後の一般への見学受け付けも検討しており、「タンパク質危機」や「食品ロス問題」、「食料安全保障」といった社会課題の解決策として期待される食用コオロギに関する展示とともに、実際の飼育風景を公開する予定だ。
グリラスの市橋寛久(いちはし・ひろひさ)生産本部長によると、現在、グリラスは年25トンの食用コオロギを使い、約5トンのコオロギパウダーを生産している。コオロギブースではデータ収集目的で、月200~300キロほどのコオロギが必要になるという。
NTT東日本の篠原担当課長は、「弊社は約3000の不動産を所有しており、次のステップは、そのうちの遊休施設を食用コオロギなどの事業にいかにそれぞれの地域で有効利用していくかということになっていく」と語った。
世界人口は80億人に達し、さらなる増加が見込まれているなか、これに伴う食料問題への対応が課題になっている。特に「タンパク質危機」と称される動物性タンパク質の不足が顕著で、その解決策として国連食糧農業機関(FAO)は昆虫食を推奨している。
昆虫は牛、豚、鶏と比べてタンパク質の生成に必要なエサや水の量が少なくて済み、さらには飼育時のCO2排出量も少なく、環境負荷の低いタンパク源として期待されている。
一方、世界では年間およそ9.3億トンの食品ロスが発生している。コオロギは雑食性のため、食品ロスをエサとして活用することができる。グリラスは国内で発生した食品ロス由来100%のエサを独自開発し、それによってコオロギの飼育を行っている。