TABIZINE10周年を記念して、ライターそれぞれが自由に綴る旅エッセイ。第4回目は、東京在住の石黒アツシさん。「ワーッと楽しい旅の思い出も嬉しいけれど、ジワーッと後を引く思い出もいいものです。誰でも出かけられる旅先だとしても、ちょっとしたお出かけだとしても、自分にしかできない体験があると思います。そんな気持ちを大切にして生きていきたいと思っています。それを「旅心」というのだと思う10年でした」
12歳のスルメッシュ君にあったのは2018年のこと。
ヨルダンのペトラに到着して、翌日の朝遺跡に出かけました。すると、人なつっこく、まぁまぁ上手なといっても日本の普通の12歳よりはよっぽど流ちょうな英語で話しかけてきたのが彼でした。「ガイドはいらないですか?」と。
「学校は休みなの?」と聞いたら休みだということでした。金曜日なのでお父さんはモスクに出かけていて、今日は一人だと言います。3人妹がいるそう。お願いすることにしました。ペトラ遺跡のメインの寺を見下ろせる断崖を登ったり、遠くまで広がる砂色の土地を歩いて点在する遺構を見て歩いたり。いろんなことを教えてくれました。楽しい数時間でした。
彼が履いている運動靴を見ると、靴のかかとから足のかかとがはみ出しています。もう靴のサイズよりしっかりと成長してしまっているんです。オーバーサイズの古びた革ジャンには大きなかぎ裂きができていています。
もう5年は過ぎて、彼も17歳か18歳になってすっかり大人になっているはず。あの旅から帰って来てからも、どうしているかなと時々思い出します。
[All photos by Atsushi Ishiguro]
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