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日清オイリオが顧客企業と連携強化 横浜に新たな商品開発拠点

インキュベーションスクエアに設置したパーム油の分別プラントの仕組みを説明する担当者=日清オイリオグループ横浜磯子事業場、2024年6月4日

 日清オイリオグループ(東京都中央区)は6月4日、植物油の主力生産工場である横浜磯子事業場(横浜市)で5月から稼働を始めた、顧客企業と連携した商品開発を目指す新たな研究開発施設「インキュベーションスクエア」を報道陣に公開した。植物油を活用する食品メーカーなど顧客企業の商品開発需要に的確・迅速に対応するため、自社の植物油精製・加工技術を生かした新商品を顧客企業側の研究者・技術者と共に開発する「共創」の取り組みを加速させる、という。

 インキュベーションスクエアはA、B両棟からなる3階建て施設。A棟は既存の「旧技術開発センター」だった建物で延べ床面積4284平方メートル。油脂の成分分析室や各種実験室などを備える。新設したB棟は同2890平方メートルで、開発商品の小規模生産に対応する本格的な油脂製造プラントなどを設けた。方メートルで、開発商品の小規模生産に対応する本格的な油脂製造プラントなどを設けた。

新設したインキュベーションスクエアB棟

 インキュベーションスクエア開設の狙いを説明した日清オイリオグループの佐藤将祐・常務執行役員は「技術・商品の研究開発から小規模生産までの全工程に対応できる一気通貫の研究開発拠点になった。名称のインキュベーションスクエアは卵がかえる広場を意味する。顧客企業と一緒に新たな価値を“創発”する共創の交流広場にしたい」と話す。

 最大の特徴といえる小規模生産に対応する油脂製造プラントは、機能別に分けると、パーム油の分別や油脂の精製、充填(じゅうてん)などを行う八つのプラントで構成。プラントは無線通信で遠隔操作する一元管理システムを採用し、少人数で稼働できる体制にした。全プラントの稼働状況は大型モニターで監視する。プラントは機能単位で配置する「モジュール」構造で、さまざまな用途に対応するため配管などの組み換えが容易な「柔構造」にした、という。

プラント監視用モニター

 また共創に不可欠な、顧客、日清オイリオ双方の研究者・技術者間の議論を充実させるために、大豆や菜種、パームなどさまざまな植物油を使った食品に関する味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚の五感評価を数値化しておいしさを分析する各種機器を導入した。

食品のおいしさに関わる聴覚を分析する機器

 たとえば聴覚評価の機器は、植物油で揚げたてんぷらを食べる際の衣の「サクサク音」を数値化しておいしさとの関係を分析するという。

 これらの機器を使えば、五感の総合評価で成り立つとされる、おいしさをある程度数値化できるため、この数値を参考に双方が求めるおいしさの到達点や食品ごとに異なるおいしさに寄与する五感の重点要素などを探ったりすることが可能になるという。客観的な数値を介して顧客と意思疎通しやすい環境をつくり、商品開発スピードを速める狙いがある。

 このほか調理実験できるテストキッチン室やてんぷらのさまざまな揚げ具合を調べることが可能な「フライ実験室」など、顧客と共同作業できるスペースをたくさん設けた。

揚げる状況を細かく観察できる透明なフライヤー

 フライ実験室には、食品を揚げる状況を上下左右など全方位から肉眼で観察できる透明なフライヤーも設置。隣接モニターを通じて、揚げる温度で異なる油中の揚げ物から出る気泡の量・流れなどを拡大映像で詳細に確認できる。気泡など観察結果は商品開発の分析データとして活用する。

 植物油は、食品のほか、口紅など化粧品類にも使われており、インキュベーションスクエアでは、化粧品メーカーなどと連携して新たな「スキンケア商品」の開発に力を入れていくという。

 このためインキュベーションスクエアB棟に肌の状態を数値で科学的に測定するための部屋「恒温恒湿室」を新設した。正確に測定するため同室内の温度や湿度、空調などの環境を測定に適した水準に制御できる。

肌測定を実演する担当者

 機器の端末を肌に密着させると、肌の水分状態などが瞬時に判定できる。測定を実演した担当者は「肌に風が当たるだけで測定値が変わってしまう。正確に測定するには環境を完全に制御する空間が必要だった」と説明した。

 日清オイリオグループは、化粧品関連の中小メーカーでは同種の恒温恒湿室を持つ企業はそれほど多くないと想定。スキンケア商品の開発に向け、この新設恒温恒湿室を活用した中小メーカーとの共創に期待している。