フランスの作曲家モーリス・ラベルによる不朽の名曲「ボレロ」の誕生秘話を描いた音楽伝記映画『ボレロ 永遠の旋律』が、8月9日から全国公開される。日本公開を前にアンヌ・フォンテーヌ監督に話を聞いた。
-今、なぜラベルの生涯を描こうと思ったのでしょうか。
ラベルの音楽には、以前からとても興味を持っていました。こんなに素晴らしい曲を作るのは一体どんな天才なんだろうと好奇心をそそられていました。彼の曲は「ボレロ」に限らず、他の作品も素晴らしいですから。ただ、今回「ボレロ」という曲を通してシナリオを書くに当たって、ラベルのとても繊細で脆弱(ぜいじゃく)な部分や、簡単に曲の着想が浮かんでいたわけではなく、スランプになったりして、創作でとても悩む姿やそのプロセスも描きたいと思いました。
-「ボレロ」という曲のことはよく知っているけれども、作者のラベルのことはあまり知らないという人も多いと思います。ラベルのことをもっと知ってもらいたいという気持ちもあったのでしょうか。
もちろんです。それを知ってもらいたいからこそこのテーマを選びました。ラベルは天才だと思われていますが、この映画では、インスピレーションが枯れてスランプになって…というところから始めました。意識的にそういう設定にしました。せっかく作曲の依頼が来たのに、それをきちんと受け止められない。内なる緊張感がどんどん高まっていく。そんな中で、生み出した曲が20世紀を代表するような傑作になった。そうした矛盾を描きたいと思いました。実は「ボレロ」はラベルにとっては、最も自信があったり、大好きな作品ではなかったのです。だから、成功と失敗、あるいは個人的な好き嫌いが合致しなかったところまで描きたいと思いました。
-この映画は、時系列を崩して、現在と過去が入り乱れたり、回想の部分があったりしましたが、それはどういう意図からそのように描こうと思ったのでしょうか。
時代を行き来したりする自由さというのは、音楽の持つ自由さとも通じるものがあると考えました。「ボレロ」もそうですし、ラベルの他の作品もそうです。これはこうあるべきだという制約から逃れて、期待を覆すようなところも彼の音楽にはあったと思います。しかも私自身、時系列に合わせた伝記映画があまり好きではありません。どこか夢の中にいるような感じの方が詩情が出ると思うので、今回は彼の人生の断片的なものを夢のように組み合わせていきました。本当に真面目に時系列を追ったら何か映画が貧しくなると思いませんか。
-映画の中の「ボレロ」といえば、クロード・ルルーシュ監督の『愛と哀しみのボレロ』(80)が有名ですが、その中でモーリス・ベジャールの振り付けでジョルジュ・ドンが踊る場面がありました。それがこの映画のイダ・ルビンシュタインの踊りと重なりました。
今回、イダ・ルビンシュタインの「ボレロ」のダンスを演出するに当たって、当時の写真を参考にしました。イダの衣装はもちろん、大衆酒場的なところに丸いテーブルがあってその上で踊ったという。ベジャールもその写真を基に振り付けを考えたというのは有名な話です。ただ、イダの初演は表現主義的というか、ダンスはあまりうまくはなかったけれど、とてもキャラの立つ人で、自分の考えを押し通すタイプだったようです。私も『愛と哀しみのボレロ』は見ていますし、ジョルジュ・ドンのバレエもライブで見ています。