大同生命保険(大阪市)は全国の中小企業経営者を対象に、景況感に加えさまざまなテーマを設定したアンケート調査「大同生命サーベイ」を2015年10月から毎月実施している。2024年8月度の主なテーマは「働きやすい職場環境づくり」。全国の5985社の中小企業経営者を対象に、8月1日から30日にかけて訪問またはZoom面談で調査を行った。
働きやすい職場環境づくりへの取り組みができている項目(複数回答)を尋ねたところ、「時間外労働の上限規制」(55%)が最も多く、次いで「年次有給休暇の取得義務化」(53%)だった。従業員規模別に見ると、規模が大きい企業ほど「同一労働・同一賃金」や「男性の育児休業取得促進」などにも積極的に取り組んでいる傾向が見られた。
時間外労働の上限規制への課題(複数回答)を聞くと、1位と2位がほぼ同率で、「業務の繁閑が激しく、突発的な業務が生じやすい」(24%)と、「業務量が多く、人手が不足している」(23%)だった。「年次有給休暇の取得義務化」「男性の育児休暇取得促進」への課題として、「代替要員の確保・手配ができない」などが挙がり、「同一労働・同一賃金」への課題として、「対応に必要な人的、時間的余裕がない」「対応により増加する人件費を負担する余裕がない」が挙がった。人手不足により、働きやすい職場環境づくりに十分に取り組めていない中小企業の様子がうかがえる結果となった。
働きやすい職場環境づくりについて経営者たちからは、「自社が取り組もうとしても周りの業者が定時や休日にしっかり休まないと、なかなか実践できない」(建設業/北海道)、「やりがいを求める職員と、働きやすい職場を求める職員との温度差に困っている」(教育・学習支援業/東北)、「人手不足のため、なかなか実行できない。働きやすさを重視すると賃金の支払いが難しくなり、結果、現状維持で精いっぱい」(建設業/北関東)などの現状を訴える声も。一方で、「家族経営なので今は問題ないが、今後代替えして何かあった時にトップがワンマンにならず、ある程度意見が通りやすい状況にしておきたいと思う」(生活関連サービス業、娯楽業/南関東)など、経営環境が変わった時を見据えた意見や、「共働きが当たり前となった昨今、時差出勤や急な休日申請など柔軟に対応し、社員が言いやすい空気が定着してきている」(製造業/四国)などの前向きな声も寄せられた。
また、働きやすさを妨げる外部要因である「カスタマーハラスメント」についても聞いた。直近1年間でカスタマーハラスメントが発生した企業は全体の2割。業種別にみると、「サービス業」(27%)は他業
種より発生した割合が高く、「卸・小売業」(24%)、「建設業」(18%)が続いた。実際に受けたハラスメントの内容(複数回答)は、「過剰な要求」(61%)、「暴言、侮辱、誹謗(ひぼう)中傷、脅迫・脅威を感じさせる言動など」(39%)、「業務に支障を及ぼす行為(長時間拘束・複数回のクレームなど)」(25%)、「会社・社員の信用を棄損させる行為(SNS投稿など)」(12%)だった。
カスタマーハラスメントへの対策状況も尋ねた。「従業員への教育・研修の実施」「被害を受けた際の相談窓口の設置」「対応マニュアルの策定」などの対策について、カスタマーハラスメントが発生していない企業では、72%が特に事前の対策を取っていなかった。実際にカスタマーハラスメントが発生した企業でも約3割が対策をしていなかった。業種別、従業員規模別に見ると、発生率の高い「サービス業」や「21人以上」の企業では、他業種に比べて対策を取っていた。
カスタマーハラスメントについて経営者たちからは、「無理な要求でも、断ってしまうと今後の取引に影響が出る可能性があるため、多少無理をしてでも要求を受け入れてしまう現状がある」(小売業/北海道)、「建設業は下請多重構造が常習化しており、暗黙の了解や無言の圧力があっても実態がつかめないのが現実」(建設業/北陸・甲信越)、「理不尽なクレームでも、初期対応を間違えるとすぐにSNSに発信されることもあり、対応に頭を悩ませている」(小売業/関西)などの悩みが寄せられた。また、「カスハラを受けた時には、対応マニュアル等を活用しながら二度と同じような被害を受けぬよう、一つ一つの問題をロジステックに解決していくことが大事」(医療・福祉業/東北)と、対策の重要さを指摘する声もあった。