世田谷パブリックシアターで上村聡史が演出したワジディ・ムワワド作品は、2014年の「炎 アンサンディ」に始まり、その後「岸 リトラル」「森 フォレ」と続き、「みんな鳥になって」はその4作目にあたる。その作品に出演するのが中島裕翔と岡本健一である。本作は、イスラエルとパレスチナの民族問題という高い壁に直面する人々の逃れられない辛い現実と、だからこそ抱く未来への夢が、ムワワドならではの迫力と美しさに満ちたせりふでつづられている。ベルリン出身のユダヤ系ドイツ人の青年エイタンを演じる中島、エイタンの父ダヴィッドを演じる岡本、演出の上村に本作の魅力や役柄について聞いた。

-本作の上演が決まった経緯を教えてください。
上村 本作はムワワドが2016年にパリ・国立コリーヌ劇場の芸術監督に就任した時に創作した作品です。彼は一度フランスに亡命しましたが、その後滞在許可の更新を拒否されて、カナダに移住しました。そのような経緯を経て再びフランスに招かれ芸術監督に就任した第1作目がこの「みんな鳥になって」であり、パリで創作活動を始めるというムワワドの強い決意を感じました。その決意というのは、寓意性が強かった前3作に比べて、本作に「イスラエル」という固有名詞がはっきり出されているような点にその意思を強く感じます。
岡本 この作品を日本で上演しようと思いついた時には、まさにガザの問題に象徴されるような混とんとした今の世界情勢が展開されるとは予想もしていなかったんですよね?
上村 驚いています。もともと、くすぶっていた地域ではありますが、白井晃芸術監督と上演を決めたときは、対立が今のように目に見える時期ではありませんでした。
-中島さんはムワワド作品に初出演、岡本さんは前3作に出演されていますが、本作の台本を読んだ感想は?
中島 日本人にはなじみのないことばかりですが、今、まさに世界のどこかで起こっていることに関心を向けて、そこにフォーカスしていくことはすごく大事なことだと思いました。実際にリアリティーがあるワードや場所がたくさん出てきて、そういう事態に日々身を置いている人々がいるということを考えると、これをどう自分事にしていけるかというところが一つの大きな課題だと思っています。
岡本 以前までのムワワド作品よりもリアルに感じています。共演者も決まり息子役を演じる裕翔のことを考えると、それぞれのイメージもつかみやすかったです。自分が演じる役にしても、こういう考えを持っているのかなと思いながら物語を読み進めましたが、最後のほうはあまりにも衝撃が強すぎて、おえつ状態になるというか、読むのにかなり苦労しました。それでも、読み物ではなく、舞台で上演するために書かれている作品ですから、どのような稽古になって、舞台上でどのようになるのかと思うと、すごくワクワクします。
-中島さんが出演することについて、上村さんはどのようなところに期待していますか。
上村 中島さんが出演されていた舞台「WILD」を拝見したときに、とても潔い表現をされていると感じたのですが、その潔さの中に光も影もあり、色彩がとても豊かで印象深いものがありました。中島さんが演じるエイタンという役は、作家が今を生きる上で、自身とオーバーラップするような決意を込めた役だと考えています。家族のことを思いながらも、自分自身がどう生きていくべきかということを最終的に決断していく役なので、そうした作家の願いのようなものをエイタンを通して表現していかなければいけない。中島さんがこの役で表現される光と影のようなものを通して、そうした作家のメッセージを伝えていきたいという思いがあります。
中島 舞台「WILD」は僕の初舞台でした。出演者が3人で、セリフの応酬がかなりあって、ずっと1人でしゃべっているような強烈な舞台で、引き出しも少なく、もがいていた自分を見て、そのように感じてくださったことはすごくありがたいと思っています。そのことがこのエイタンという役にも通ずることがあるとおっしゃっていましたし、アイデンティティーや、自分を構成するものに縛られていくのか、あるいはそこから解放されていくのかという、見てくださる方が感じる疑問をストレートにぶつける人物がエイタンだと考えていますので、そういうところを真っすぐに演じることができればと思っています。
-本作には長ぜりふも結構あります。
中島 本当に口の中が切れるのではないかと思うくらいの長ぜりふです(笑)。エイタンだけでなく、他の方の役もすごくしゃべっている印象で、それがある種のワクワクにもなります。どういうふうにこれをつなげていくのか相手のせりふにどう反応していくのかというのはすごく楽しみでもありながら怖いです。とにかく、せりふの多さで口内炎ができそうです(笑)。