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“もの忘れ”の原因は加齢だけではない? シオノギヘルスケアが「第1回 全国もの忘れと脳活大規模調査」

[表1]つい忘れてしまう!日常生活での「もの忘れあるあるランキング」

 実は若い世代ほど“もの忘れ度”が高いことも!? シオノギヘルスケア(大阪市)が9月の「世界アルツハイマー月間」と9月21日「世界アルツハイマーデー」にちなんで実施した「脳活・もの忘れ実態調査」では、もの忘れには、一般的に考えられている加齢だけではない要因があることが浮かび上がった。調査は、都道府県別に40~70代の男女120人ずつ、全国5640人を対象に、7月31日から8月2日にかけて行った。

 まず、日常生活での「もの忘れあるあるランキング」として、さまざまな項目を提示し当てはまるかどうかを全体に尋ねた(複数回答)。その結果、約6割が「当てはまる(当てはまる+まあ当てはまるの合計)」と回答したのが、「久しぶりに会った人の名前が思い出せないことがある」(57.1%、3218人)。以下、「言おうとしている言葉が、すぐに出てこないことがある」(56.3%、3174人)、「周りの人から同じことを何度も言うと言われたことがある」(23.8%、1342人)、「今日が何日なのか、日付や曜日がわからなくなることがある」(23.7%、1336人)、「5分前に聞いた話を思い出せないことがある」(20.8%、1175人)と続いた。

 「周りの人から『同じことを何度も言う』と言われたことがある」については、男女ともに「40代」が高く(男性24.3%、女性25.0%)、最も低いのは50代男性(22.5%)、続いて70代女性(22.6%)だった。年代が高くなるにつれて、「同じことを何度も言う」、「自分の言ったことを忘れる」と思われがちだが、今回の調査では真逆の結果となった。

 「今日が何日なのか、日付や曜日がわからなくなることがある」についても、一般的には年代が上がるほど忘れがちなこととしてよく思われがちだ。しかし今回の調査では、男女ともに「40代」(男性26.9%、女性31.4%)が最も高く、70代女性(18.0%)が最も低かった。女性は年代が下がるほど割合が高かった。

 「5分前に聞いた話を思い出せないことがある」についても、男女ともに「40代」(男性26.3%、女性20.0%)が高く、反対に「70代」(男性20.2%、女性16.2%)が低いという結果だった。

[表2]日常生活での「もの忘れあるある」性年代別分析

 これらの結果について古賀良彦杏林大名誉教授(精神科医)は、「40代は働き盛りで忙しく、またIT機器 の発達により、日々の記憶の定着に無頓着なことが影響している可能性がある。記憶は何度も思い出すことによって強化されるが、忙しく、またキャプチャなどを撮っておけばいつでも見返せる現代の働き盛りの世代にとっては、自分で努力して思い出す時間的余裕も必要性も薄いため、記憶が定着しづらいのかもしれない」との見解を寄せている。

 また、今日の朝ごはんや最近見ていたドラマのタイトルなど15の項目を挙げ、「忘れてしまった」ことについて尋ねた(複数回答)。15項目中、「忘れてしまった」の回答が最も多かったのが、「小学校1年生の担任の先生の名前」(39.4%)、次いで「小学校6年生の時のクラス(6年何組か)」(30.5%)だった。また、21.3%の人が「初恋の人の名前」を忘れていた。

[表3]もの忘れ度 回答一覧

 忘れてしまうことの項目について古賀氏は、“忙しくて覚えていられない”“昔のことでも大切に思っていることは覚えている”など、本人の生活面や情緒面の中で無意識につけている優先順位が現れている可能性を指摘。その上で、「預貯金通帳/カードの暗証番号」や「実印の置き場所」などのお金周りのこと、家庭内外のコミュニケーションに関わる「結婚記念日」や「一番最近電話をかけた人」など、忘れると生活やコミュニケーションに支障をきたす項目について、自分の忘れ度をチェックして注意することを呼び掛けている。

 「同年代と比べて自分はもの忘れが多いと思うか」については、全体の4割が「多いと思わない」(44.7%)と回答。「多いと思う」は、年代が上がるとともに減り、70代は7.2%だった。一方、以前の自分と比べて、もの忘れが増えたと思うかと聞くと、42.7%は「増えたと思う」と答えた。年代別に見ると、40代は35.5%で、年代が上がるとともに増え、70代は47.3%が「以前の自分と比べて、もの忘れが増えた」と答えた。

[グラフ1]自分のもの忘れの程度

 自分のもの忘れに対する危機感を聞くと、全体では64.8%がもの忘れに対する危機感を持っていた。家族の認知症の不安・兆候別に見ると、「配偶者に不安・兆候がある」人で85.1%と危機感が強く、同居・別居に限らず家族に認知症の不安・兆候がある層で危機感が強くなっていた。性・年代別に見ると、男性は年代による変化があまり見られなかったが、女性は40代58.2%→60代70.2%と、年代差が大きくなっていた。

[グラフ2]自分のもの忘れに対する危機感と認知症の不安・兆候の有無

 これらについて古賀氏は、アルツハイマー型認知症は、家族性(血縁関係にある家族に同一の疾患が見られやすい)のケースよりも、非家族性のケースの方が多いと指摘。「家族に認知症の不安・兆候がない場合も過信せず、もの忘れへの危機感を持ちましょう」とアドバイスしている。また、今回の調査で高齢層ほど「以前の自分と比べもの忘れが増えた」と自覚しているものの、反対に高齢層ほど同年代と比べ「もの忘れが多いとは考えない」という傾向が明らかになったことに対してもコメント。「加齢によるもの忘れは仕方がないが、飛び抜けたものではないと自身を肯定する心理が背景にあるといえる。高齢になると自身を否定することが減る傾向にあると言われ、これは生きていく上で悪いことではないが、健康寿命を長く保ち、ウェルビーイングを実現していくためには、自分がもの忘れをしてしまったらそれを認め、前向きに対処していくことが重要」としている。