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【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】自分の葬儀に思うこと三つ

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】自分の葬儀に思うこと三つ 画像1

2022年7月28日=1,208
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


わが地元・三重県木曽岬町を流れる木曽川河口から伊勢湾の眺め(橋は伊勢湾岸自動車道)
わが地元・三重県木曽岬町を流れる木曽川河口から伊勢湾の眺め(橋は伊勢湾岸自動車道)

▽オヤジの場合

先日、実家にあるオヤジの仏壇に手を合わせてきた。実家とは言えわが家の近所なので、そのつもりならば毎日でも拝みに行けるのだが、なかなかそうはやってない。今はおふくろが独りで住んでいる。病の種類は違うがオヤジもがんだった。亡くなってもう10年近くになる。ある年の晩秋に旅立った。

そのオヤジ。がんを患う中でやはり死期を悟ってきたのだろう。亡くなる半年ぐらい前の春、自らの仏壇を注文していた。そして自分が亡くなった後のこと、すなわち葬儀に関してもある程度の準備をしていた。例えばどこのお寺に頼む、住職は誰に経を唱えてもらう。また葬儀に参列してほしいのは誰で、この人にはあとで連絡してくれなどと。かなり用意周到な人だった。すべておふくろが任されていたとはいえ、見ていて家族はかなり大変やったと記憶する。

▽わが葬儀

葬儀と言えば最近、報道ではいわゆる「国葬」についてさまざまな意見が交わされている。それについて、ここで論じるつもりもないし、もちろん、その立場でもない。ただし「国葬ありき、これに異を唱えるなどもってのほかだ」などと声をあげる一部の政治家にはがっかりする。何事においても賛否両論あってしかるべき、これがわたしの持論だ。“ええね”もあれば、“あかんね”もあるのが世の常であるのだから。
そんなこんなで、ふとわが葬儀について思いを巡らせた。今までにも時々考えてきていることであり、SNSなどどこかでしゃべったこともある。その思いは三つ。

▽「密」葬

まず、形式は密葬。誰にも来てもらわなくてええんや。家族葬でも多いぐらいだ。身内のなかの身内だけ。今日もしも死んだならば、参加者の予定はヨメさん、子。そして兄弟姉妹、と言っても実際には妹がひとり。それから近くに住むおふくろ。そして発病後も何かとお世話になっているヨメさん方の近しい身内。こんなところかな。とにもかくにも密な人だけで送られたいからである。密葬の密は、私にとっては「密やかに」ではなく「密接」の密なり。

この先、気が変わって葬儀には数十人いや、YouTubeの登録者数ぐらいは呼んでくれ、なんてなったらあいすみません。ちなみに原稿を書いている今、登録者数(ひろちゃん。足し算命)は200人ほどです。この数について友人からは、たった・・・と言われちゃいました。そぉかなぁ、自分の中では多い数なのに。

▽連絡不要

次に知人への連絡。以上から皆さんはもうお分かりですよね。そうです、その通り。つまり連絡は誰にもしないってことであります。だからいつかどこかで「あれぇ大橋洋平は死んでたんやぁ」と、半年後いや1年後、いやいや数年後に気づいてもらえたら最高です。
ひっそりこっそりと死んでいきたい。これを切に希望します。

でもその半面、がんを生きるいまは、余すところなく己の存在を知らしめたいです。全国ツアー始動もこの現れ。売名行為と非難されればその通りです、申し訳ございません。でもわがままな言い分としては、こんな生き方もある、がんを克服していなくてもこんな風に生きられるということを、隠れることなく大々的に示したい。これが現時点での素直な思いかな。

紀伊半島から望む太平洋
紀伊半島から望む太平洋

▽お墓

そしてそしてお墓。お墓は要らない、散骨希望です。その場所は海。東半分が海である三重の地に生まれ育ったわたくし、やっぱり海が好きなんです、陸よりも空よりも。そりゃあ本音を言えば、わが名前からも太平洋で“蒔(ま)いて”ほしい。でもちょっと遠いな。だから近場の伊勢湾でお願いします。そうそうこれは身内に声を大にして言っとかなきゃ。

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”)


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがん闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。