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5秒の幸せ 有馬温泉の旅 【あなたをエスコート 幸せになる旅コラム#6】

神戸鉄道の有馬温泉駅
神戸鉄道の有馬温泉駅

 「もっとゆっくり食べなさい」、子どもの頃から叱られていました。私の早食いが初めて役立ったのは、20代で添乗員になってから。お客様がランチを楽しんでいる間に、添乗員は清算を済ませ、次の目的地や宿泊施設の確認をとるので、自分がゆっくり食事をする時間などありません。でも、早食いだった私には十分なランチタイムだったのです。

 本来、食事とは幸せを感じる行為なのですから、やっぱり早食いは良くないと自らに言い聞かせ、旅人となった今、その土地ならではの食事をのんびりと堪能するようになりました。なぜ冒頭にこんな話を書くのかというと、何十年かぶりに特技の早食いをちょっとだけ発動する旅になったからなのです。

 太閤・秀吉も愛した日本三古湯、三古泉などと呼ばれる有馬温泉は、西の奥座敷としていつの世も多くの人々を癒やしてきたそうです。神戸の中心、三宮から神戸市営地下鉄を使い、終点の谷上から神戸電鉄に乗り換えれば約30分で到着します。

有馬温泉の親水広場とねね橋
有馬温泉の親水広場とねね橋

 有馬温泉駅の改札を出ると正面には有馬川が流れています。右手に進むと太閤橋、ねね橋に挟まれた親水広場があり、有馬温泉を紹介するパンフレットでよく紹介される場所にたどり着きます。豊臣秀吉と正室のねねは、何度もこの地を訪ねたそうです。

 ねね橋から太閤通りに入るとすぐ右手に「賞味期限5秒 元祖なま炭酸せんべい」という看板が目に飛び込みました。炭酸で作ったせんべいは聞いたことがありますが、「賞味期限5秒」って?

賞味期限5秒の「元祖なま炭酸せんべい」
賞味期限5秒の「元祖なま炭酸せんべい」

 湯之花堂本舗(太閤通り店)では、観光客の目の前で炭酸せんべいを一枚ずつ焼いています。せんべいを焼き型から剥がしてすぐに食べられるのが「元祖なま炭酸せんべい」の正体でした。ちなみに炭酸だからといって、シュワシュワするわけではなく、炭酸水で材料を練ることで、パリッとした食感になるそうです。

 焼き上がりを待ち、じっと身構えます。大人になって封印していた私の早食いが解禁されます。「おまちどおさま!」の声で渡されたせんべいの半分を0.5秒もかけず口の中へ。熱々のフニャフニャ、そして優しい味が広がり、なんとも幸せな気持ちになりました。

 2口目となる残り半分を食べたときには、焼き上がりから5秒を経過していました。食感はパリパリです。つまり、1枚のせんべいでフニャフニャとパリパリの食感を楽しめる逸品なのです。猫舌とかいっている場合ではありません。

 有馬温泉は鉄分と塩分を含む褐色の「金泉」と、炭酸を含んだ無色透明の「銀泉」があります。旅館だけでなく、「金の湯」と「銀の湯」という公共の外湯もあり、金の湯には無料の足湯もあるので日帰りでも温泉を楽しめます。

足湯もある金泉の「金の湯」(左)。炭酸泉、ラジウム泉の「銀の湯」
足湯もある金泉の「金の湯」(左)。炭酸泉、ラジウム泉の「銀の湯」

 有馬温泉のメインストリートは湯本坂です。坂の途中には懐かしい赤色のポストがあり、町の風情に色を添えています。兵庫県特産の但馬牛を使ったコロッケを買い、のんびり食べ歩き…の予定でしたが、一瞬で食べ終わってしまいました。どうやら早食いが復活してしまったようです。

湯本坂の赤いポスト
湯本坂の赤いポスト

【旅人略歴】
 エスコートK…数十年前、旅程管理主任者の1期生として、国内外のツアーをエスコート。現在は生活情報誌の編集長だが、旅の取材だけは自らのカメラを手に、こっそりとデスクを離れ出掛けている。