旅の相談を受けていると、「リゾート地へ旅行をしたのに、夕飯は中心街にある全国チェーンのお店で食べてしまった」「深夜まで営業しているカラオケ店で盛り上がり、気付いたら日常と変わらないことをしていた」という反省の声を聞きます。
「せっかくの旅先でもったいない!」と言いたいところですが、私も同じようなことがよくあります。旅は楽しみとともに、不安もつきもの。それゆえ、見慣れた看板のお店に入ることもあります。また終電を気にせず、ホテル近くのカラオケ店で熱唱してしまうのも理解できます。
今回のコラムでは、そんな反省とは無縁のリゾート地、沖縄県八重山列島のひとつ竹富島を紹介します。石垣島の離島ターミナルから高速船でたった10分という距離にもかかわらず、にぎやかな石垣島とはまったく雰囲気が異なります。見慣れた飲食店の看板も、カラオケ店のネオンもありません。
サンゴ礁が隆起してできた竹富島は、島全体が国立公園に、人々が暮らす集落は国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。「売らない、汚さない、乱さない、壊さない、生かす」とは島の約束事で、竹富島憲章と呼ばれています。それゆえ、竹富島は今でも沖縄の原風景が維持されているのです。
この憲章を尊重している宿泊施設が「星のや竹富島」です。リゾートホテルやヴィラなどではなく、島の東方に位置するひとつの集落だとイメージしてください。既存の集落と同じように、白砂の道でグックと呼ばれる石積みの塀に囲まれた赤瓦屋根の木造平屋建ての家屋に宿泊できる施設です。
星のや竹富島の48ある家屋はすべて南向きに建てられています。サンゴ石灰岩を積みあげたグックは通気性がよく、開放的な構造の室内に、それはそれは穏やかな風を運んでくるのです。
我が家のような星のや竹富島に旅の荷物を置いて、島を散策しましょう。竹富島にはレンタカーはありません。起伏の少ない島ですから、自転車をレンタルすれば、さほど時間もかからず島内を回れます。ただし、舗装された道は集落を囲む外周路ぐらいなので、白砂の道を自転車で走るのは少しばかり体力が必要です。
ランチは西桟橋近くにある古民家のようなお店で八重山そばを堪能しました。その後は美しい海水浴場のコンドイ浜や星砂のカイジ浜など島内をサイクリング、集落では自転車を降りて水牛車に揺られてみました。幸せな島時間が続きます。
夕暮れ時、星のや竹富島へ戻る途中、民家から音色を調整している三線の音が、風にのってかすかに聞こえました。ご機嫌な私は、沖縄出身のバンド、BEGINの「竹富島で会いましょう」を一人で歌っていました。アカペラでもスッキリしましたよ。
【旅人略歴】
エスコートK…数十年前、旅程管理主任者の1期生として、国内外のツアーをエスコート。現在は生活情報誌の編集長だが、旅の取材だけは自らのカメラを手に、こっそりとデスクを離れ出掛けている。