だが本来、自分が得意とするものを捨て、周囲が期待する「今川の後継者」になろうとした氏真の気持ちを想像すると胸が痛む。
本人もそれを自覚していたからこそ、最後は「今も兄と思っておるからじゃ」という家康と、「蹴鞠をするあなたさまが好きでございます」という糸の説得に応じたのだろう。それ故、投降して“戦国大名”の地位を降り、その苦しみから解放された氏真を見たときは、ほっとした。
威圧感満点で、見るからに“ザ・戦国武将”といったたたずまいの岡田准一(織田信長役)や阿部寛(武田信玄役)と違って、柔らかさをまとった溝端も、そんな氏真のキャラクターにぴたりとはまっていたように思う。
「余は何一つ事をなせなかったが、妻一人を幸せにしてやることなら、できるやもしれぬ」と言い残して去っていった氏真だが、番組公式サイトで公開されている溝端のインタビュー動画を見ると、いずれ再登場することになりそうだ。
「何一つ事をなせなかった」と決めるのはまだ早い。史実を見ても、氏真は思った以上に長生きしている。やはり、本来の自分でいられる人生を選択したことは、彼にとってよかったのではないだろうか。
今後、溝端がどんな氏真を見せてくれるのか。その期待も込みで、氏真の再登場が楽しみだ。
(井上健一)