だが今回、松本はこれまでとは大胆に芝居を切り替え、瀬名と信康を失った悲しみと衝撃がもたらした家康の変化を見事に表現してみせた。その変化は劇中で、登場人物たちから「ふ抜けになった」「か弱さがなくなって、頼もしい限り」あるいは「たいそう素直になられましたような気も」と視点によって異なる評価を得ることとなった。「玉虫色」ともいえるそれらの評価に納得感をもたらす松本の絶妙な芝居に、思わずうなった。
そして付け加えるなら、そんな家康の変化を際立たせた共演者たちの存在も重要だ。例えば、本多忠勝役の山田裕貴や榊原康政役の杉野遥亮。「ふ抜けになった」などと家康を評したせりふはもちろんだが、信長をもてなす準備をする家康の姿を無言で見つめた際のほんの一瞬の表情にも、批判的な感情がにじみ出し、家康の変貌ぶりを印象付けていた。
この回のラストでは、家康が家臣たちに「信長を殺す。わしは…天下を取る」と殺気に満ちた表情で本音を打ち明け、「本能寺の変まで あと46日」の字幕が表示される衝撃の展開が待ち受けていた。信長が口にした「化けた」という言葉も後の“たぬきオヤジ”を予感させるが、大きな変化を迎えた家康がこれからどのように歩みを進め、それを松本がどう演じていくのか。期待を込めて見守っていきたい。(井上健一)