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【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】三重から浜松へ珍道中・後編

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】三重から浜松へ珍道中・後編

2024年6月15日=1,896
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算

(前編のあらすじ) 4月、数人のがん仲間に会うため向かった静岡県浜松市。道中、冷え冷えの列車に耐え、牛丼屋でタブレット注文に格闘し、ようやく到着した浜松駅前のバスターミナル2番乗り場。そこには、ひと・人・ヒトの長蛇の列があった―

▽2番乗り場

 見渡してもタクシー乗り場の影はない。腹をくくった、とにかく並ぼう。覚悟したら冷静な己を少し取り戻せた。
 そして行列の先頭に視線をやると、長蛇の列は2番乗り場ではなく、1番乗り場のものだった。広告看板も目に飛び込んできた。「浜名湖花博2024、開催中」とある。そうか、だからか。
 目的の2番乗り場は……誰も並んでない。助かったぁ。しかも、なんとすでにバスが止まっている。よしラッキー、ついている。私は一目散にそのバスに飛び乗った。
 目的バス停「××前」までは10分ほどで、230円だ。出発前に調べておくのは見知らぬ土地を訪ねるなら当然だ、と言いたいところだが、主催者から詳細に知らされていた。実は乗り場だけでなく、乗車するバス番号も・・・

▽西アジア系家族

 バスに乗車すると整理券を取って、一番後ろの席を陣取った。乗り物の席は一番後ろか一番前が好きだ。席に座ると、とっても落ち着いた。見渡すと全部で10人弱の乗客だ。2列前あたりに西アジア系と思われる子連れの家族4人が座っていた。
 浜松駅を出発して1~2分走行したころ、彼らの動作が慌ただしくなってきた。何やらキョロキョロあたりを見渡している。そして次のバス停で、運転手に話しかけ、彼ら全員は下車していった。
事の真相は定かではないが推し量ると、乗車バスを間違えてたんやないかな。前もってちゃんと調べておかなきゃ、こっそり見下していた。

▽バス停がない

 さらにバスは進み、そろそろ到着かな。ところが自分が下りるはずの「××前」のバス停の名前が運賃表示に現れない。いつの間にか運賃も230円を超え、時間も10分を優に過ぎている。外国人親子の一件から生じたアディショナルタイムか。今度は自分がじたばたしているとアナウンスが入った。
 「次は終点、終点〇〇です」
 えーっ、止まらんかったやん。さすがに降車する際に運転手に問いかけた。
 「すみません浜松駅から乗ったんやけど、『××前』は通り過ぎたんでしょうか」
 言葉が返ってくる。
 「お客さん、このバスは路線が違います。2番乗り場を発車する路線のうち、この路線だけそのバス停に止まらない」

浜松駅=写真提供:「we love 浜松」https://enjoy-hamamatsu.shizuoka.jp/
浜松駅=写真提供:「we love 浜松

▽折り返し浜松駅へ

 やらかした。浜松駅で飛び乗るときに確認すべきやった。でもあのわき目も降らず乗車できた状況ではやむを得ない。後悔し、さらに恥じた。4人の家族を侮った己を。本当にごめんなさい。すぐに気づき行動を起こした彼らは、もうすでに称賛に価していた。
「ここから『××前』バス停に向かうバスはあるんでしょうか」
「う~ん直通はないね。折り返し浜松駅に向かうんで、先ずはこのバスを一旦降りて。料金はここ終点までの〇〇円」
 あれっケチ!全部を払うんや。…そりゃそうや、己の勘違いでここまで来たんやから。

 むなしさに打ちひしがれつつ下車した私は、再度乗車し、5分ほどで浜松駅に向かって発車した。終点・浜松駅でまた同額を支払って下車、それからやっと本来のバスに乗るんや…と遠い道のりを思っていた。

▽新たな事案

 5分余り経ったろうか、ここで新たな事案が発生した。信号待ちしている際にマイクの声が聞こえてきた。
 「お客さ~ん、『××前』ですよね。歩くの大丈夫ですか」
 「は、はい大丈夫です」
 「次のバス停で降りて」
 すぐにバス停がやってきた。
 「ここで降りて、この交差点を左に曲がって、しばらく歩いて大通りに出たらそこを右に曲がって坂を下りてくと、『××前』に着くよ」
 「あ、ありがとうございます」
 ここまでの運賃150円を払って教えられるまま、しかし半信半疑で歩き始めた。歩いた時間はどれくらいか、30分くらいかそれ以上か。ようやく何とか目的地にたどり着く。ホントに奇跡的や。最終局面が下り坂だったのも幸いし、開始時刻に間に合った。

▽これからが本番

 さて、今から本日のメインイベントを迎える。がん仲間との語らい、それはどうなったかって…? ご想像にお任せする。ただ心身ともに十分力を使い果たしてから会が始まったことだけは間違いない。でも、ホントに充実した珍道中やった。そして改めて気づかされた。
 「急ぐはエエけれどやっぱり、焦ったらアカン」

 ところでユーチューブらいぶ配信、しぶとく続けてます。チャンネル名「足し算命・大橋洋平の間」。配信日時が不定期なためご視聴しづらいとは察しますが、どこかでお気づきの際にはお付き合いくださいな。ご登録も大歓迎。応援してもらえると恐れながら生きる力になります。引き続きごひいきのほどを。わたくし生きている限り何卒よろしくお願い申し上げまぁす!

(発信中、フェイスブックおよびYouTubeチャンネル「足し算命・大橋洋平の間」)


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)、2022年11月「緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがん闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。