未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。今回は、弁当作りを通じて子どもたちを育てる「弁当の日」の提唱者・竹下和男(たけした・かずお)先生が、進路の悩みについてアドバイスします。
自分が何をしたいか分からなくて 進路が決められない
【質問】
高校2年生の娘がいます。学校から、「卒業後の進路について、具体的に決めるように」と言われています。成績は悪くありません。娘自身、大学には行きたいようなのですが、自分が何を勉強したいのか、どこの大学に行きたいのか分からないようで、進路が決まらない状態です。もうすぐ大人ですし、親の言う通りではなく、自分の意志で決めてほしいと思うのですが・・・。
▼特に勉強したいことが決められなくても 広い視野で夢を膨らませてみよう
家計が苦しい家庭の高校生なら、はやく自立するために自分の進路を決めていきます。反対に、生活苦が少なければ進路決定を先延ばしにしがちです。大学に行きたいし、行ける状況にあるのなら、あとは進学先の選定です。“どんな大学生活を夢見ているのか”から親子で考えるのがいいですね。
私のかつての同僚は福岡県出身でしたが北海道の大学に入学し、北の大自然を満喫した4年間を過ごしました。また知人の愛知県の子どもは、沖縄県の大学に進学しました。都会や地方、雪国や南国の生活は結構人生に変化や潤いを与えるものです。私(香川県)の同級生は、大好きな教授の授業を受けたくて京都の大学に行きました。その彼はもう他界していますが、学生の時に彼を訪ね京都案内をしてもらった記憶は鮮烈で、数年前にそのコースを再び訪れました。もちろんより高度な専門知識や技術を求めて大学進学をするのですが、地理的環境の変化の大きい学生生活も、いい思い出となったり、新しい故郷になったりして人生の宝になります。
また遠距離でも自宅からの通学を希望するのか、一人暮らしや寮生活を夢見ているのか、といった暮らしぶりも大学選択の大きな要因です。自炊生活に挑戦したことが自分の進路に関わることだってあります。ある学生は、自分の偏差値で考えた最上級の大学の家政学科に進学しました。家政学には興味がなく、家事の経験も全くなく、適性もないと思っていましたが、授業を受けるうちに面白くなり、料理研究家を目指すようになりました。
とくに研究したい学問もなく、優れた能力がないと思っていても、先生や先輩・後輩と学生生活を過ごすうちに、少しずつ自分の長所や短所に気づき、自分の適性から将来の職業が見えてくるものです。
あわせて学生時代は趣味を広げる体験・挑戦をしてみるといいでしょう。スポーツ・音楽・芸能・読書や登山・旅行・アルバイトにも、多くの新しい世界、すてきな人との出会いがあります。
娘さんは、何を勉強したいのか、どの大学に行きたいのかを、これまでの受験勉強だけでは決められていないだけのことです。大学生活の地理的・経済的・人的環境を具体的にイメージしていく過程で夢は膨らんでいきます。目標が決まれば集中力もついてきます。焦らず見守りましょう。具体的な大学とか職業を選択していくことより、どんな人生を送りたいかを考えるときの相談相手になれる親でいたいものです。
竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。