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桜井日奈子「『女優が天職』と言えるようになりたい」若い女性が人生を切り開いていく物語に重ねた自らの歩み『魔女の香水』【インタビュー】

 6月16日から公開された『魔女の香水』は、将来への希望を失った若い女性・若林恵麻が、“魔女”と呼ばれる香水店店主の白石弥生(黒木瞳)との出会いをきっかけに、人生を切り開いていく物語だ。恵麻を演じるのは、『殺さない彼と死なない彼女』(19)、「君と世界が終わる日に Season4」(23)をはじめ、幅広い分野で活躍する桜井日奈子。「自分と重なる」という恵麻役に込めた思いを、これまでの歩みを振り返りつつ語ってくれた。

桜井日奈子(HM:サカノマリエ/ST:阿井真理) (C)エンタメOVO

-出演オファーを受けたときの気持ちは?

 不安を抱えた恵麻が、香水の力を借りて人生を切り開き、たくましく成長していく物語にわくわくしました。ただ、実年齢より上の役を演じるのは初めてという不安もあり、その振り幅をどう演じようかと考えながら台本を読みました。

-物語の前半、仕事を解雇されるなど、苦労続きの恵麻は同世代の共感を呼びそうですが、桜井さんは恵麻のどんなところに共感しましたか。

 「自分の足で立って生きていける人になりたい」という恵麻のせりふがありますが、前半はその言葉だけが彼女を突き動かしていたと思うんです。私も何もない状態から「何者かになりたい」という思いだけでこの業界に飛び込んだので、そこは一緒だなと。どうしていいか分からない不安を抱えたまま、その言葉だけを頼りに突き進む感じが、デビュー当時の自分と重なりました。

-桜井さんはそこからどんなふうに歩んでいったのでしょうか。

 私にも、恵麻にとっての弥生さんのように、自分を導いてくれる方がいたんです。それが、デビュー当時のマネジャーさんです。その方は、10代で社会経験のない私に、業界で生きていくすべを一から教えてくれました。オブラートに包まず、ストレートに物を言う方だったので、言葉は厳しく、精神的にきついときもありましたが、あのマネジャーさんがいなかったら、今の私はなかったと思います。

-普段も、そのマネジャーさんの言葉を心に留めて行動していると?

 そうですね。一緒にいた頃は任せっきりだったんですけど、離れてしまった今も、どこかで見ていてくれるはずですから。そういう意味では、他人のせいにできない分、より責任感も強くなりました。

-逆に桜井さんの周りに、恵麻のように人生に迷っている人はいますか。

 いますね。自分が何をしたいのか分からず、さまよっているような子が。劇中には「天職を見つけなさい」というせりふも出てきますが、天職になり得る仕事を探すのも大事だけど、天職にしたいと思える楽しみ方を見つけるのも、大切なことだと思います。その子には、それを教えてあげたいです。私自身も、女優業が天職かどうかまだ分かりませんが、天職にしたいと思っています。

-女優を天職にしたいと思ったことには、何かきっかけがあるのでしょうか。

 いつの間にかですね。実はデビューして3年目ぐらいまでは、結構しんどかったんです。私は、運よく、下積みもあまりない状態にも関わらず、ありがたいことにいろんな作品に呼んでいただけました。ただ、自分の「やりたい」という意欲より先に、作品が決まっていった分、どこか「やらされている感」があって。でもそれが、いつの頃からか「楽しい」に変わり、気付いたら「自分がやりたいからやっている」になっていたんです。そこで、「自分はこの仕事が好きなんだ」と気付くことができました。いずれは「女優が天職」と言えるようになりたいと思っています。

-そう言える人生を送れるのは、幸せなことですね。

 そうですね。

-そういう人生を送るために、弥生さんと出会って人生を切り開いていく恵麻や、マネジャーさんと巡り合った桜井さんのように、自分を導いてくれる人と出会う秘訣(ひけつ)はありますか。

 秘訣と言えるかどうか分かりませんが、自分の足を引っ張る人や、高め合えない人のそばにはいるべきじゃないのかなと。そういう意味では、いい人と巡り合うためには、環境を変えるのも大切なことかもしれません。

-そうかもしれませんね。ところで、この映画には「女性の活躍を応援する」というメッセージが込められていますが、同じ女性として黒木瞳さんや宮武由衣監督から刺激を受けたことはありますか。

 黒木さんのお芝居の作り方はすごく緻密なんです。このせりふのときはここにいて、顔はこういう向きで、と一つ一つ丁寧に作り上げる様子が、本当にプロフェッショナルだなと。なかなか見る機会もないので、「学ばせていただこう」と思っていたんですけど、一朝一夕にまねできるものではなくて。「私が黒木さんのレベルに達するまで、あと何十年かかるだろう?」という感じでした。

-なるほど。

 お芝居の面では黒木さんに引き出していただいたものがたくさんあります。ご一緒するのは涙を流すなど、感情的なシーンが多かったんですけど、黒木さんのおかげで、何の心配もなく表現したいところまで持っていけた気がします。

-宮武監督はいかがでしょうか。

 映画監督の方は、どちらかというと自己主張の強い方が多いイメージだったんですけど、宮武監督は自分の考えがあっても、まずは周りの意見を聞いてくださるんです。言われたことに柔軟に対応されている感じがすてきで、付いていきたくなる監督だなと。

-現場で宮武監督に支えられた部分もありましたか。

 現場では、大人の女性に成長した恵麻を演じることに不安を抱えていた私を、何度も褒めてくださったんです。そうやって、不安を一つ一つ取り除いてくれました。以前、宮武監督とご一緒されたことがある平岡(祐太/恵麻と出会う会社社長・横山蓮役)さんが「宮武監督は、本当に良くないと褒めないんだ」とおっしゃってくださったことも自信につながりました。そういう意味では、宮武監督にはすごく支えていただきました。

-本作は女性の活躍を描いていますが、恵麻の成長物語には男性も共感できると思います。男性の観客に向けてメッセージはありますか。

 弥生さんが恵麻に語る人生の教訓の数々は、男女問わず心に響くものがあると思います。私が大好きなのは、「社会を憎んでも仕方ない。他人は変えられないけど、自分と未来は変えられる」というせりふです。仕事をしていく上で、壁にぶつかることは誰にでもありますが、そんな言葉の一つ一つが、心をふっと軽くしてくれると思います。そういう意味では、見る人の心を軽くする魔法を持った映画だと思うので、ぜひ男性にもご覧いただけたらうれしいです。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)映画「魔女の香水」製作委員会