-店主の独特の存在感は、40年近い仲村さんのキャリアに裏打ちされた部分も大きい気がします。その点に関連して、これまで長く芸能界で活躍してこられた理由を、ご自身ではどのように分析しますか。
シンプルなことですが、一つ一つの仕事に対して「一生懸命に取り組む」ということはデビュー当時から心がけてきました。「これは楽勝だ」と思ったことは一度もありませんし、「これは得意かも?」と思った瞬間に、「その油断は危ない」と考える癖が身についてしまっています。それを繰り返しているうちに、40年経ってしまった気がします。
-長く続けるにあたっては、魅力を感じる部分もあったのでは?
デビュー作の『ビー・バップ・ハイスクール』(85)のとき、「映画をやっている人たちって、魅力的だな」と強く感じました。たぶん僕は、作り話を本当の物語にしようと本気で取り組んでいる人たちが好きなんでしょうね。僕自身、今も時々、役や作品について現場で熱く語ってしまい、ふと「作り話なのに、何をこんなに熱く語っているんだろう?」とわれに返ることがありますし(笑)。そういう意味では、周りの人たちに恵まれていたことも、僕がここまでやってこられた大きな要因です。僕が「故郷」と呼ぶ「あぶない刑事」シリーズ(86~)は、その象徴です。振り返ってみると、その「故郷」にそろっていた魅力的な方たちのおかげで、ここまで導いていただけたような気がします。
-店主は毎回、ユニークな名言を残しますが、仲村さんご自身が俳優を続ける中で大事にしてきた座右の銘はありますか。
「武士は食わねど高楊枝」は、この仕事を始めて間もない20代前半から、頭の片隅にずっとある言葉です。ありがたいことに、僕は非常に幸運なスタート(『ビー・バップ・ハイスクール』の主役公募オーディションに合格してデビュー)を切ることができました。でも、最初の頃は「いつか仕事がなくなる」と不安な時期もあったんです。そんなとき、ある方のアドバイスをきっかけに、たとえ仕事がなくても自分のポリシーやルールは曲げず、腹が減っていても減っていない顔をする、仕事がないのは休んでいるだけ、として生きていこうと思えるようになって。そんな考えに、「武士は食わねど高楊枝」という言葉がぴったりだったんです。
-ドラマをより楽しむヒントになりそうなお話です。それでは最後に、放送を楽しみにしている皆さんへのお言葉をお願いします。
劇中のナレーションで「この店に来た客は、みんな口をそろえてこう言うよ。『なんかよかった』ってね」とお客さんが語っていますが、ご覧になった皆さんにも、「料理はおいしかったし、あの親父、勘違いしてとんでもないことをしゃべっていたけど、なんか面白かったな」という一香軒に来たお客さんの気分を味わっていただける作品だと思います。僕自身、とても楽しく演じられましたし、忙しい方も無理なくご覧いただける「1話あたり12分」というタイムパフォーマンスのいい作品なので、ぜひ気軽に楽しんでください。
(取材・文・写真/井上健一)