
-激しい対決になったようですね。
ただ最終的には、一日中何度も踊っているうちに、伊藤くんとも一体感が生まれ、二つのチームが一つになっていく感覚がありました。撮影が終わった時は、ボクシングで最後まで戦った相手同士がお互いをたたえ合うような気分で、伊藤くんと抱き合って喜びました。おかげで、僕と伊藤くんの距離も縮まり、その後の撮影にもいい影響があったので、苦労したかいがありました。
-若木屋は大文字屋だけでなく、ほかの忘八の親父衆ともかかわり、集会にも顔を出すそうですが、撮影現場の様子を教えてください。
現場では、僕は(駿河屋市右衛門役の)高橋克実さんとお話しすることが多いですね。伊藤くんと(りつ役の)安達祐実ちゃんが、よく食べ物の話をしているので、それを僕と克実さんで目を見合わせながらほほ笑ましい気持ちで聞いています。みなさん一緒に撮影される機会が多いので、回を重ねるごとに居心地がどんどん良くなっていき、今ではなじみ感がすごいです。蔦重の芝居をメインで撮るとき、その周りにいる僕らがアドリブを指示されることも多いのですが、そういうとき、アドリブ合戦になることも多くて。仕掛けるのは大体、(松葉屋半左衛門役の)正名僕蔵さんです(笑)。
-どんなアドリブが繰り広げられるのでしょうか。
おかしかったのが、踊りの撮影が終わった後、忘八のメンバーが集まった日のことです。そこで僕と伊藤くんの踊りの苦労話が出たのですが、その日、ちょうどアドリブが必要になって。そこで祐実ちゃんが、踊りの思い出話をして、伊藤くんに「もう一回踊って見せてくれよ」と無茶ぶりをしたんです。伊藤くんは「無理です」とかたくなに断っていましたね(笑)。回を重ねて皆さんとスムーズにコミュニケーションが取れるようになったおかげで、そんないい雰囲気が出来上がっています。
-忘八たちの集まりに顔を出す蔦重役の横浜流星さんの印象はいかがですか。
せりふも多いですし、毎日、大変な撮影を頑張っていますよね。その姿を見たら、僕らも頑張らざるを得ない。おかげで、現場には彼よりキャリアのある俳優がたくさんいますが、どんなに大変でも、彼を支えようという雰囲気が自然と出来上がっています。言葉でなく、そんなふうに姿勢で現場を引っ張る感じで、役者からの好感度は抜群だと思います。僕はまだ、蔦重と直接絡む機会は少ないですが、いずれは流星くんとがっつりお芝居をしてみたいですね。
(取材・文/井上健一)