カルチャー

【動画】江田島の観光課題解決を図る “カキ”と島旅クルーズ

 瀬戸内海に浮かぶ広島県の江田島(えたじま)。カキの一大産地だが、船移動の不慣れから来る心理的なハードルもあり、特に冬季は観光客が伸び悩んでいる。そこで、国土交通省の補助金を活用して、冬の江田島クルーズの旅を開発。ツアーの企画に携わった関係者に聞いた。

 今回のツアーは、広島港で観光型高速クルーザーのSEA SPICA(シースピカ)に乗り、宮島厳島神社の大鳥居を眺めながら船上参拝。江田島にある江田島荘で昼食を取り、島の内湾である江田島湾を回ってカキ加工工場の江田島オイスターファクトリーの直営カフェでまったり。呉湾の海上自衛隊基地にある艦船を見て広島港に帰るというコースだ。

–ツアーを開発した背景、実施してみた感想は?

江田島市役所の職員・尾上元気さん
 「江田島は広島湾に浮かぶ島で、人口は約2万人。瀬戸内海で4番目に大きく、広島県では一番大きい島。しかし、広島市民からすると、船で30分の距離がすごく遠くに感じ、なかなか足を運べてもらえていません。夏は海があるので海水浴に来てくれるが、冬は観光客が少なくなる。売りであるカキと合わせたツアーが作れたら人が来てくれるのではないかと考えました」

瀬戸内シーライン株式会社の取締役・岡田俊司さん
 「瀬戸内シーラインは、呉や広島からの江田島航路を主に運行しています。フェリーや高速船がありますが、今回はSEA SPICA(シースピカ)という観光船でツアーを作りました。1、2月は海が穏やかでわりと暖かい。江田島を何とか売りたいという思いで、国土交通省の補助金も頂いたのでチャレンジできました。
 非常に手応えはありました。当然来年も同じような企画をしたいと思っています。瀬戸内海は、世界に誇れる景観を持っていますので、ぜひ来ていただければと思います」

江田島荘の総支配人・阿部直樹さん
 「2021年7月1日に新規開業した温泉宿です。今回のツアーを通して、日帰りのお客様を受け入れできるようになりました。
 何を提供できるか考えた時に、まずはお食事。江田島の生産者を回って仕入れたものをお出しすることをこだわっています。また、以前、温泉施設だった時からの江田島源泉をそのまま使っています。海が近いので身体が浮くぐらい塩分が高いおかげで保湿と保温に優れて、しかも広島は火山帯がないので冷泉しかないのですが、ここは30度以上ある。掛け流しで入れる温泉を用意しているのは広島県内にはほぼ私どもしかない。その源泉を足湯でもお楽しみいただけます。アート作品が館内にたくさんあり、そういった空間を楽しんでいただきながら、地元のものを販売する機会も提供できています。
 船でアクセスすることで、ここに来る時点でお客様のテンションも上がっているので、お客様の評価は非常に高くいただいております」
 
江田島オイスターファクトリーを経営するオーシャンポイント株式会社の代表取締役社長・坂井英隆さん
 「来られる時間帯がお昼すぎなので、デザートとドリンクでのカフェタイムを、眺めの良いところでゆっくり過ごしてもらう流れになっています。ちょうどカキの養殖いかだが目の前に浮かんでいて、対岸は呉。あと1カ月したら桜が目の前で咲きます。なので、春もきれいな景色が楽しめると思います。
 この工場は23年6月にオープンしたばかり。広島県産カキは世界的にもブランド力があって、われわれの工場を通じて、広島県産カキのブランドイメージがより向上することに少しでも貢献できたらと思って、最新の設備を整えて生産しています。今の冷凍技術は発達していて、マイナス20度まで短時間でしっかり冷やし込みをすることで、解凍した時に旨味が損なわれないような凍結の仕方をしています」

–江田島の魅力とは?

オーシャンポイント株式会社の代表取締役社長・坂井英隆さん。
 「出身が福山なので、ここに来てまず思ったのが、やっぱり海がきれい。静かで穏やかな気候ですし、自然を体験できる施設がたくさんある。海軍兵学校とか、サイクリングコースもあったりして、いろんな楽しみ方ができると思います」

江田島荘の総支配人・阿部直樹さん
 「瀬戸内の中でも特にこの江田島湾は、カキいかだが広がって、奥には山が広がるという風景。凪(なぎ)っていう海が穏やかな状態をお楽しみいただけるのは、瀬戸内の中でもさらに山に囲まれているこのエリアでしかない。海流がそこまで激しくないので、カキも育成しやすいです」

–これから、この江田島をどうしていきたい?

オーシャンポイント株式会社の代表取締役社長・坂井英隆さん。
 「カキは広島が全国60%以上のシェアを持っています。そのカキの加工現場を、一般の人が直接目にできる場所。われわれが思っているのは、地元の小中学生や県内の中高生に、校外学習で積極的に利用していただいて、将来的に広島県の特産品であるカキにまつわる仕事に、一人でも多くの人に興味を持ってもらえたらと思っています。そういう学びの場としての意味合いも込めて、見学通路を作りました」

江田島市役所の職員・尾上元気さん
 「いわゆる観光地というところが江田島にはない。でも、カキだとかオリーブだとか、食べ物もおいしい。立地も広島市内からすぐに来ることができる。観光地を作ることは難しいけれど、観光客を呼び込むことはできるので、そういった魅力を発信していったり、作り上げていけば、一人でも多くの人に来てもらえるんじゃないかと思っています」

江田島荘の総支配人・阿部直樹さん
 「船を使った体験は満足度が高いことが分かったので、これをぜひ充実させたいです。江田島に来たら、海を楽しみ、カキ小屋もそうだし、季節の魚が食べられるなど海鮮もおいしいです。海からのアプローチを通じて江田島の良さをお伝えし、宿泊も含めて、観光客が増えるといいなと思っています」

瀬戸内シーライン株式会社の取締役・岡田俊司さん
 「コロナ以降、ウェブ会議や在宅勤務で人々が移動しなくなっています。でも、外からのお客様に来ていただかないと、船には伸びる要素がありません。外からいかにお客様を呼ぶかとなると、島自体の魅力をもっとアピールしないといけないと思います。われわれ船会社も協力できることはやって、もっともっと(いろんな業界と)一緒になって取り組んでいきたいと思います」

※本事業は、交通事業者と観光分野の事業者等が連携して地域全体の魅力及び収益力の向上を図る取組を支援する国土交通省の『交通・観光連携型事業」の補助金を活用した取り組みです。