ビジネス

粉末化する社会と少子化 藤波匠 日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」

 ゴールデンウイーク、少し時間が取れたので、読みかけだった金子勇北海道大学名誉教授の『少子化と縮減社会』を読み直してみました。全編にわたり示唆に富む書籍であり、とりわけ印象深い言葉が、金子氏の造語である「粉末社会」です。

 金子氏による粉末社会の定義は、社会全体の連帯性や凝集性が弱まり、国民全体が個別的な存在に特化した社会です。私なりに解釈すれば、家族や共同体本位から、単身者中心の社会に変化することを象徴的に表していると捉えました。金子氏は、粉末社会の一つの現象として見られる未婚率の上昇に伴い、少子化は当然の帰結としています。

 粉末社会への移行は、個人の意識変化の影響が大きいと考えられますが、昨今の社会的な環境変化が、個人本位の社会への移行を後押ししているとみることもできます。例えば、若い世代は、東京や大阪など大都市に流入しますが、その受け皿となっているのが単身者用のマンションなどです。以前であれば、学生や新入社員用の寮に住むのが一般的で、そこにはつながりの強弱こそあれ、共同体としての連帯性が存在していました。

 最近の若い世代は、そうした寮を避け、単身用マンションに暮らすことを望む人も増えており、都市部には1Kもしくは1DKサイズのワンルームマンションが大量に供給されています。一方で、ファミリー向けの比較的広い住宅は賃貸、分譲ともにとても高価となり、賃貸物件においては、その数も十分ではありません。所得が二極化する社会の中で、都市部における住宅供給の現状が、単身でいることを後押しするようになってしまっていることが懸念されます。

 しかも、かつての寮などには存在した共同体からも隔絶された若者が増え、そうしたことも結婚減少の一因となっている可能性があります。国立社会保障・人口問題研究所が実施している「出生動向基本調査」によれば、夫婦が知り合ったきっかけは、「友人や兄弟姉妹を通じて」が30%と、「職場や仕事の関係で」の32%に次いで多くなっています。以前であれば、自ら進んでパートナーを探さなくても、おせっかいな仲間や友人がその候補を紹介してくれたものでしたが、そうしたことも、今ではめっきり少なくなりました。いったん1人の気楽さに慣れてしまうと、パートナーに出会う機会は極端に減ってしまうことになります。

 住宅制約や共同体の喪失のせいばかりではありませんが、未婚率は、各世代において長期にわたり上昇を続けています。ただ、前出の「出生動向基本調査」によれば、18、19歳の世代においては、生涯未婚で構わないと考えている人の割合は、男女とも10%強に過ぎず、いずれかの時点ではパートナーを見つけたいと考えている人が大半であることがわかっています。しかし、30歳代後半での未婚率は、男性で39%、女性で26%と、多くの若者が家族を作ることについては、思い通りになっていない様子がうかがわれます。

 過度な「粉末化」の進行を抑え、家族を持ちたい人が不安なく結婚、出産ができる環境をつくるために何が必要なのか、真剣に考えるべき時期であるといえましょう。
(日本総合研究所 調査部 主席研究員 藤波匠)

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.20からの転載】