「男女平等」の分野で日本は世界に大きく後れを取っているといわれる。それが数値で現れたのが、スイスに拠点を置くシンクタンク、世界経済フォーラムが2022年3月に公表した男女平等度の指標「ジェンダー・ギャップ指数」。日本は116位と世界最低レベルだった。では、都道府県別では? 国内の地域の男女平等の度合いを可視化するため、上智大の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が世界経済フォーラムと同じ手法で統計処理し、今年春に「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」として公表。その内容については、共同通信社からも記事が配信され、各地方新聞社が紙面に大きく取り上げた。
この「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」を基に、来年春の統一地方選に向け、政治や行政分野のジェンダー平等実現の方策を議論するシンポジウム「地域からジェンダー平等を」が、12月8日に東京都内で開催された。政府主催のジェンダー平等の実現を目指す「WAW!2022 WAW!ウィークス」の公式サイドイベントで、(株)共同通信社主催、「地域からジェンダー平等研究会」共催。協賛に(株)アートネイチャー、井村屋グループ(株)、キッコーマン(株)、共栄火災海上保険(株)、(株)フィリップス・ジャパン、後援は内閣府男女共同参画局、全国知事会。登壇者は、鳥取県知事として女性管理職登用に積極的に取り組んだ片山善博氏、国際NGO研究員などを経て東京都杉並区長に今年当選した岸本聡子氏、女性の就労支援事業を続けているW20日本共同代表の小安美和氏、「ジェンダーと政治」研究の第一人者の上智大法学部教授・三浦まり氏、統計経済学が専門で上智大経済学部准教授の竹内明香氏。山脇絵里子・共同通信社会部長がモデレーターを務めた。シンポジウムは会場とライブ配信のハイブリッドで行われ、会場80人超、オンライン約120人の計約200人が聴講した。
シンポジウムの冒頭、三浦氏は、「日本は地域の特色がさまざま。都道府県版ジェンダー・ギャップ指数は順位付けが目的ではないので総合順位は出していない。各地域の強みや課題を発見し、どの分野に男女格差が残るのかを知るツールとして発信し、地域から日本のジェンダー平等を実現するために活用してほしい」と述べた。山脇氏は、「ジェンダー・ギャップは社会のいろいろな問題の中核にある。誰もが生きやすい社会のためにジェンダー・ギャップの解消が欠かせない」と指摘した。
世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数では「政治」「健康」「教育」「経済」の4分野を分析している。「健康」は平均寿命などを指標としているが、医療水準が高い日本では都道府県差が比較的少なく、また男女比で指数化することに限度があるため、今回は除外。代わりに、住民に身近な地方自治の立案・執行の場である「行政」分野を採用し、「政治」「行政」「教育」「経済」の4分野28項目で指数を算出した。各項目で男女の人数(割合)が完全に同じであれば指数は1になり、男性ばかりで女性が1人もいないと指数は0となる。一つ一つの指標を1に近づける努力をすること、さらに経年変化を追い、その先の政策へとつなげていくことを目指している。
行政面の男女平等指数のトップは、鳥取県。以下、滋賀・島根・岐阜が並ぶ。政治面では、東京・神奈川・新潟・千葉・京都が上位。女性首長の面では栃木・兵庫・徳島・京都・新潟・東京が上位。人口が多い地域、都市部では人口の多さに対して政治に女性が関わる度合いが多いことがうかがえる一方、各都道府県の取り組みの違いや課題も感じられる結果だったという。
鳥取県庁での女性管理職登用を進めた元同県知事の片山氏は1992年に自治省(当時)から出向の形で鳥取県総務部長を務め、1999年~2007年まで2期、知事職を担った。「自治省の中で国際交流の仕事をしていたとき、男女共同参画の場であり、意見が多様に出るし活気があり、ウキウキと楽しい気持ちを感じていたが、総務部長時代、管理職のほとんどが男性で違和感を持った」という。総務部長時代に、まず県庁の中枢である財政課・人事課・秘書課に女性を多く登用。例えば、季節的に長時間労働や徹夜が多い財政課については、人数を増やしたり、繁忙期の冬場の仕事を夏場に移して平準化したり、デジタル予算編成も取り入れた上で女性職員を増やした。女性管理職登用に関しては、「急に三段飛びぐらいで昇進させるのは、周りも本人も戸惑い、本人をつぶしてしまう可能性もある。ある程度時間はかかるが、基礎からトレーニングを積んで段階を踏んでピッチを速めて昇進してもらうとスムーズに行きやすい」と体験談も語った。
片山氏は、「男女平等を目指すには、特に男性の働き方改革が非常に重要」と指摘。自身の第4子誕生直前に転勤辞令が出て、「君が産むわけではないだろう」と先輩に言われたというエピソードも紹介。「そんなことを言われていやな思いをする人をなくしたいと思った。自分が、自分の家族がこうなったらと、想像力を働かせることが大切ではないか」と力を込めた。
小安氏は、全国各地で女性の就労支援や、中小企業を主な対象にした女性リーダー育成に取り組んでいる。その中で「女性からの『事を荒立てたくない。私さえ黙っていれば丸く収まる』という声をたくさん聞いてきた。1人では無理でも集まれば声を上げやすくなる。1人の声から世の中を変えていく体験の共有を進めていきたい」などと話した。
岸本氏は、「(杉並区長の)選挙活動の時など、私の周りには本当に女性が多かった。地域では女性が本当にたくさん活躍している。政策中心の選挙は女性が強い。選挙活動が、政策をどんどん戦わせるものになってほしい。全国の自治体で、女性のポテンシャルが生きる選挙を応援していきたい」と話した。
山脇氏は、片山氏の言葉を引用し「男女共にウキウキ楽しく働くためにジェンダー・ギャップの解消を進めていきたい。女性ゼロ議会が来年の統一地方選でどれだけ減るかを楽しみにしている」と話した。都道府県版ジェンダー・ギャップ指数については、毎年3月8日の国際女性デーに合わせて数字を更新していく予定という。「議論が全国各地で行われるためのツールとして使ってほしい。この後職場で、家庭で、今日の話をして自分たちができることを話し合ってもらえたら。そして『そういえばジェンダー・ギャップ指数なんてものがあったね』と懐かしく思うような時代が来てほしい」と結んだ。
シンポジウムのアーカイブはYouTubeで見ることができる。