鳥取県がまたまたやってくれた! 「蟹取県改名」や「500円でカニが当たるカプセルトイ」など、独創的な取り組みで魅力発信を行ってきた鳥取県が、今度は日本の自治体として初の「メタバース課」を立ち上げ、日本初のAIアバター職員を採用した。
2月2日、都内で「鳥取県メタバース課職員採用発表会 ~ご当地アトムNFT(鳥取県版)プロジェクト報告~」が開催され、平井伸治 鳥取県知事出席のもと、AIアバター職員第一号のお披露目が行われた。冒頭、平井知事は「鳥取県はメタバースに進出しようと腹を決め、メタバース課を設置した。本日、課の職員を任命する。鳥取県は、人口は最小かもしれないが、メタバースをスナバース(鳥取のすなば珈琲にかけた?それとも砂丘の砂にかけた?)にするという野望がある」とあいさつ。
「私なんかメタバースにはあまりなじみがない。どちらかといえばメタボース。だが、メタバースは世界中の人とつながるチャンス。新型コロナウィルスのために実際に会うことは難しくてもメタバースなら世界中の人と出会うことができる。アバター職員は英語で案内をすることができるので言葉の壁もない。自治体をPRするチャンスがさらに広がる。これこそが新しい世の中、コロナ後を見据えた戦略だ」と続けた。
しかし、なぜ鳥取県がメタバースなのか。実は鳥取県は昨年、Web3.0(ウェブスリー)型メタバースXANA(ザナ)を運営するNOBORDER.z FZE.(ノーボーダーズ)社、手塚プロ、J&J事業創造の3社とコラボし、地方創生と地域経済への貢献をテーマにしたNFTプロジェクトを立ち上げた。
具体的には、鳥取のいろんな観光地を背景にした、手塚プロのASTRO BOY(鉄腕アトム)のキャラクターのデジタルトレーディングカードを使ったゲームを開発したのだ。遊びながら地域の魅力を学べる、そのNFTカードゲーム「ASTRO BOY × JAPAN NFT 鳥取編」は、販売開始と同時に世界中から注目を集め、世界90カ国から購入エントリーを受け、完売する大ヒットとなったという。
このたび、その売り上げの一部が鳥取県に還元されることとなり、この日の発表会には、3社を代表してNOBORDER.z FZE.のFounder/CEO、RIO(リオ)氏もオンラインでドバイから参加。
RIO氏は、「(ゲームは)全世界から大きな反響があり、総売り上げは115.14ETH(イーサリウム=仮想通貨の単位)。当時の日本円換算で2752万9360円になった。そこから、鳥取県には5.75ETH、137万6468円を還元させていただく」と表明した。
それを受けて平井知事は「このカードゲームを通じて世界中に鳥取県を発信することができた。しかもこの売り上げで、われわれのメタバース上の展開をご支援いただくことができる。NFTはわれわれにとっては、Nature、Food、Travel。NFTカードゲームから鳥取の自然や食べ物、旅行につなげていければ」と応じた。ちなみに、NFTは正式にはNon-Fungible Token(非代替性トークン)の略。ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータのことだ。
大好評のうちに完売した鉄腕アトムのデジタルトレーディングカードは、芸術的にも価値のある美しいもの。そこで、メタバース内に展示スペースを作り、広く公開することにし、案内をするアバター職員を採用することとなったわけだ。
そして、いよいよ自治体オリジナルAIアバター職員第一号の発表である。出席者が注目するなか紹介された職員の名前は・・・「YAKAMIHIME」。鳥取県が舞台の神話「因幡(いなば)の白兎」で、大国主命(おおくにぬしのみこと)と日本最古のラブストーリーを演じた八上姫がその名の由来だという。 そんな古めかしい名前だが、アバターは明るい茶髪のショートカットのかわいい女性。現代的な雰囲気だが、一本芯の通った強さも持っていそうだ。
日本初の快挙とあってか、平井知事は少々興奮気味に「鳥取県メタバースAIアバター職員に任命する!」と「YAKAMIHIME」さんに辞令書を交付。
知事が会場へのサービスで「趣味は何でしょうか?」と尋ねると、「YAKAMIHIME」さんは、緊張しているのかシステムがまだこなれていないのか、やや時間をおいて「人と話すこと、友達を作ること、メタバースを散策することが好きです。あとは大好きなウサギのお世話です」とアニメっぽい声で返事をしてくれた。
抱負を聞かれると、また少し時間をおいて「鳥取メタバースを、安心・安全で誰もが楽しめる活気あるオンラインワールドにするためにお手伝いできればと思っています。そして世界中に鳥取県の魅力を発信していきたいです」と返し、知事が思わず「合格です!」とうれしそうなのがほほ笑ましかった。
近年多くの自治体が抱える人口減少や高齢化、コロナ禍による経済の衰退について、人口最少県の鳥取県でも従来からさまざまな取り組みを行ってきた。新しい「メタバース課」の本当の目的は、メタバース空間内での情報発信を通じて、定住人口でも観光に来た交流人口でもない、地域と多様に関わる「関係人口」を創出することだ。NFTを活用して鳥取を応援するようなプロジェクトが生まれたり、メタバース上で鳥取県の魅力を発信したりと、リアルな観光や物産振興のほかに新たな関わり方が生まれることを県では期待しているという。
この日、最も印象的だった平井知事の言葉は次のようなものだった。
「今年は鳥取砂丘が有名になってちょうど100年。そのきっかけは、有島武郎の詠んだ『浜坂の遠き砂丘の中にして わびしき我を見いでつるかな』という歌。ここから鳥取砂丘は観光地化していった。それから100年。今度はメタバースの世界に乗り込んでいく。ぜひ多くの皆さんが鳥取と出会いにメタバースにやって来ていただければ」