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ドキュメンタリー映画『飯舘村 べこやの母ちゃん―それぞれの選択』 ポレポレ東中野で1週間限定上映、そして全国へ

飯館村の風景 ⓒMizue Furui 2022
飯館村の風景 ⓒMizue Furui 2022

 幸せって何だろうか? 何の変哲もなく、繰り返される毎日。それを自覚せずに日々送れるということが幸せの基本なのではないだろうか?

 その繰り返しに横やりが入ることで、今までの平凡なる日常が幸せだったと今更ながら実感させられる。それはきっと不幸の訪れなのではないか?

 先祖伝来の土地で牛を育ててきた酪農家たち。平凡ながらも幸せに暮らしてきた、そんな家族たちを突如襲った東日本大震災と東京電力福島第一原発事故。

 放射能汚染が懸念された福島県飯舘村の牛たちは牛乳の出荷も、移動も、牧草地の草を食べることも禁止された。さらには全村避難が決定される。

 村民の多くが暮らしと生業を奪われてしまった。およそ6年後に、帰還困難区域を除く全ての区域で避難指示が解除されたが、故郷を離れざるを得なかった時間はあまりに長く、帰村した村民は約2割にとどまっている(2022年12月現在)。

 牛を続けた人、やめた人、飯舘村を離れた人、戻った人。一人一人が大きな人生の選択をしてきた。牛(べこ)と共に生きてきた母ちゃんたちも、どん底の思いをしながら、それぞれが悩み、苦しみ、ときには笑いながら生きてきた。

 そんな彼女らの強さとたくましさに引かれたのは、パレスチナの女性たちの取材を長年続けてきた古居(ふるい)みずえ監督。福島に拠点を構え、故郷、生業、家族のはざまで揺れる飯舘村の女性たちの心情を丁寧に記録した。

 2011年3月11日の後、10年以上の撮影・制作期間を経て、完成させたのが、ドキュメンタリー映画『飯舘村 べこやの母ちゃん——それぞれの選択』(2022年/日本/180分/ⓒMizue Furui 2022/配給協力・宣伝:リガード)である。「第1章 故郷への想い」では中島信子(比曽地区)さんと家族を取り上げ、「第2章 べことともに」では原田公子(飯樋地区)さんと家族に焦点を当て、「第3章 帰村」では長谷川花子(前田地区)さんと家族を追った。

 このドキュメンタリー映画は3月11日(土)から17日(金)まで、ポレポレ東中野で1週間限定上映される。また、神戸映画資料館では3月10日(金)から14日(火)まで、名古屋シネマテークでは3月12日(日)のみ、横浜シネマリンと大阪のシアターセブンでは3月18日(土)から、フォーラム福島では3月31日(金)から上映される予定。

 飯舘村は福島県の北東部に位置する豊かな自然に恵まれた美しい村。その75%を山林が占め、高原地帯特有の冷涼な気候に加え、ヤマセ(北日本の太平洋側で春から夏にかけて吹く冷たく湿った東寄りの風のこと)が吹くことから、冷害に悩まされてきた。そのため、村民は冷害に強い農作物を植え、畜産業に力を入れてきた。

 原発事故が起こった2011年3月当時、飯舘村には200軒を超える畜産農家と12軒の酪農家が存在し、6180人の村民と約3000頭の牛が暮らしていた。しかし、4月に飯舘村が計画的避難区域に指定され、全村避難に。多くの農家が廃業や移転を余儀なくされた。

 2012年7月、国は飯舘村の避難区域を見直し、年間の放射線量によって、村が3つの区域に分断された。そして2014年から本格的な除染作業が始まった。

 2017年3月31日、6年に及ぶ避難指示が解除された。しかし、2022年12月現在、帰還者数は1232人と震災前の約2割にとどまっている。

原田公子さんら ⓒMizue Furui 2022
原田公子さんら ⓒMizue Furui 2022

 古居みずえ監督は、「べこやの母ちゃんは子牛が産まれるとミルクで育て上げる。大きくなったら、雨の日も風の日も1日も欠かさず、乳搾りをする。3人の母ちゃんの生き方は違うが、私はどんな状況下でも強く、たくましく生き抜いていく姿を描きたいと思った・・・3人のべこやの母ちゃんたちの人生を通して、原発事故は何だったのか、人々に何をもたらしたのか、考えるきっかけになればと思う」とコメントした。

 古居みずえ監督は1948年、島根県生まれ。アジアプレス・インターナショナル所属。1988年よりイスラエル占領地を訪れ、パレスチナ人による抵抗運動・インティファーダを取材。他にもインドネシア、アフガニスタン、アフリカの子どもたちを取材。

 2007年、映画『ガーダ パレスチナの詩』を制作。第6回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞受賞。第12回平和・協同ジャーナリスト基金第1回荒井なみこ賞受賞。2011年、映画『ぼくたちは見た ガザ・サムに家の子どもたち』制作。座・高円寺ドキュメンタリー大賞受賞。2017年、『飯舘村の母ちゃんたち―土とともに』を制作した。今回の作品はそれに次ぐ『飯舘村の母ちゃんたち』シリーズの第2作にあたる。

『飯館村 べこやの母ちゃんーそれぞれの選択』
『飯館村 べこやの母ちゃんーそれぞれの選択』